2015 Fiscal Year Research-status Report
眼の水晶体を構成する蛋白質中で、加齢に応じ蓄積する結合型D-Aspに関する研究
Project/Area Number |
15K16514
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
高田 匠 東京薬科大学, 薬学部, 助教 (80379007)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | D-Asp / 白内障 / タンパク質 / 水晶体 / crystallin |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、白内障、アルツハイマー病、動脈硬化症など加齢性の疾患組織内において、異常蛋白質の凝集部位に蛋白質結合型のD-アミノ酸(主としてD-Asp)が多量に発見されている。これら蛋白質中におけるD-Aspの蓄積は加齢による非酵素的な異性化反応の結果である。L-アミノ酸の重合体である蛋白質中にD-アミノ酸が生じ、正常な蛋白質の高次構造が乱されることで不溶化や凝集が生じると考えられる。たとえば、ヒト眼の透明性維持に必須である水晶体内のクリスタリン蛋白質中では加齢後に多量の結合型D-Aspの蓄積が観察されていることから、結合型D-Aspの蓄積と白内障発症との関連性が長く指摘されてきた。しかしながら、実際に、タンパク質内にD-Aspが形成されることによる当該タンパク質の機能変化、構造変化を明らかにした研究成果は非常に少ない。 そこで、本研究では、タンパク質内におけるAsp異性化と、それが及ぼすタンパク質の機能低下および引き起こされる加齢性白内障との関連性を明らかにすることを目的とした。 本年度は、加齢に応じて多量体形成能が変化する、ヒト水晶体内のa-クリスタリン多量体および単量体内それぞれの部位における特異的Asp残基の異性化と、クリスタリン会合状態との関連性を明らかにすることに取り組んだ。 本年度の結果として、まず加齢後のヒト水晶体内において分子シャペロン機能を有し、水晶体機能に関して大きな役割を担うa-クリスタリン多量体が加齢に伴い、単量体化していることを見出した。加えて、見いだされたa-クリスタリン単量体内58, 85, 151, 番目のAsp残基が加齢に応じた異性化率の増加を示したことから、Asp異性化がクリスタリン会合体状態の維持にとって重要な役割を時果たす可能性があることを提唱した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各年代(42歳~83歳)の加齢性ヒト水晶体より抽出した可溶性画分をサイズ別に分離し、質量分析を応用した異性化解析法に用いたところ、通常600 kDaの巨大会合体を形成する水晶体構成タンパク質であるクリスタリン会合体から解離したαA-クリスタリン単量体を見出すことができた。さらに興味深いことに、それら単量体αA-クリスタリン中に加齢依存的なAsp58異性化(D-Asp化)の増加を確認した。これらのD-Asp化の増加は、過去の報告にある不溶性画分中のαA-クリスタリン内部における同残基中D-Aspの増加量と一致する(Fujii N et al.(2012)J Biol Chem. 287: 39992-40002)。おそらく、タンパク質中のAspが異性化することで、Asp残基の主鎖身長、Asp側鎖の反転が生じ、それらを原因としてα-クリスタリン中のサブユニット間の相互作用に変化が生じたことで単量体化、不溶化が生じたと考えている。以上のように、サイズ別タンパク質分離技術とLCMSを用いた微量D/L分析技術を組み合わせることにより、加齢後組織内(加齢後水晶体内)において結合型D-Asp形成が引き起こすタンパク質機能の低下や構造変化(サブユニット間相互作用異常)を見出した(Takata T et al.(2015)FEBS J. 287: 39992-40002)。したがって、現段階で本研究は、概ね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
タンパク質中における結合型D-Asp形成がタンパク質機能や構造変化に及ぼす影響が示唆され、加齢性白内障発症に関する知見を得ることはできた。しかしながら、依然として実際のタンパク質中Asp部位にD-Aspを導入することは困難であり、生体内における具体的な異性化Asp含有タンパク質の機能解析は困難な状態である。そこで、次年度は本年度において見られたαA-クリスタリン中の異常Asp異性化部位をモデルとして、該当Asp部位を異性化Aspに置換したペプチドを作成し、トランスフェクションを用いてヒト水晶体由来の培養細胞(SRA 01/04)内に導入し、細胞内での挙動を観察する。得られた成果から水晶体中でD-Asp形成が有する生理的意義を推測し、それがどのように加齢性白内障の発症と関わるのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
大学間の移籍によりある程度、実験系見直しの必要性が発生したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新規に培養細胞を用いた実験を立ち上げる必要がある。それに関与する消耗品の購入に用いる。
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Research Products
(5 results)