2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16523
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
杉原 匡美 順天堂大学, 医学部, 助教 (80648163)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 拡張型心筋症 / 心不全 / 運動療法 |
Outline of Annual Research Achievements |
拡張型心筋症(DCM)は慢性心不全(CHF)の主要な原因の一つであり、左心室の拡大と収縮能低下を特徴とした心筋症で、約50%は遺伝子変異を伴う家族性である。病態が進行する過程において、交感神経系、レニン-アンギオテンシン系、サイトカイン等が活性化し収縮力の低下を代償しようとする(代償期)が、やがて心拍出量が低下した非代償期に移行し、肺うっ血等の心不全症状が現れる。家族性拡張型心筋症では30~40%が心室性の致死性不整脈により突然死するとの報告がある。近年、運動療法はうっ血の改善、心血管系の改善、副交感神経系の活性化などを介してCHFに効果があると報告されているが、家族性DCMでは心不全の重症化や致死性不整脈が悪化する恐れがあるため、運動療法の効果が明らかでない。これまで、森本らによって作出されたヒト家族性拡張型心筋症に基づく拡張型心筋症モデルマウス(以下DCMマウス)を用いて研究を続けており、ヒトのDCMの病態を良く再現すると考えられた。その過程で心筋のイオンチャネルリモデリングが心筋細胞膜の易興奮性を惹起して心室性不整脈を引き起こすこと 、アンギオテンシン受容体阻害薬(ARB)の投与が個々の心筋細胞の肥大化および心筋組織の線維化、イオンチャネルリモデリングを抑制してDCMマウスの寿命を延長すること等を明らかにしてきた。同時に、幼若時より頻繁に(毎日~2日毎)自発運動をさせたDCMマウスは致死性不整脈をほとんど起こさず寿命が延長することを見出した。一方、低頻度(10日毎)の運動では有効性は見られなかった。これらの結果から、DCMにおいても適切な運動が症状改善に有効であるという仮説を得た。本研究では、細胞、分子レベルの検討により運動療法の分子メカニズムに迫ることを目的とした。幼若期からの自発運動を行ったDCMマウスでは、心拡大および収縮能低下が遅延している傾向がみられ、イオンチャネルリモデリングも抑制されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
この研究では、トロポニンT遺伝子変異をノックインしたマウスのホモ接合体をDCMマウスとして用いている。平成27年度は、特に雄性のDCMマウスの繁殖能力が著しく低下し、実験計画遂行が遅れた。期間中に動物飼育室および動物実験室が移動し、飼育環境の変化が要因のひとつと考えられる。これまでの結果は以下の通りである。1ヵ月齢から自発運動を開始したDCMマウスを自発運動群、運動をしていないDCMマウスを非運動群とした。1ヶ月齢において、自発運動群は非運動群に比べ心重量/体重比が小さかった。肺重量/体重比は野生型、自発運動群、非運動群で有意な差は認められなかった。3ヶ月齢では、非運動群の中には心重量/体重比、肺重量/体重比ともに著明に増加している個体がみられたが、自発運動群ではみられず、有意に心拡大および肺うっ血が改善されていることが判った。また、2ヶ月齢で行った心エコーにおいて、自発運動群は非運動群に比べて左室拡張末期径が短く、駆出率および左室内径短縮率が高い傾向にあり、生体データでも心拡大の進行と左室収縮能の低下が遅延している傾向が認められた。さらに、DCMマウスの左心室からの遺伝子発現解析において、自発運動群は非運動群に比べイオンチャネルのリモデリングが抑制されていた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の計画がDCMマウスの繁殖の影響で遅延しており、引き続き上記自発運動の効果におけるメカニズム解明を遂行する。前述のように、このDCMマウスでは既にレニン・アンギオテンシン阻害薬での寿命延長効果が判明している。平成27年度の研究計の結果を踏まえ、有用と考えられるプロトコルを行った運動群にレニン・アンギオテンシン阻害薬を投与する。各運動群における相加相乗効果を評価し、上記と同様の方法を用い、そのメカニズムの相違点の有無について検討する。また、実際のDCM患者での運動療法の内容を念頭に置き、トレッドミルにおける強制運動についてもDCMマウスをいくつかのプロトコル群分けて運動を行い、上記の方法でその影響を評価する。その結果に基づいて、最適な運動のプロトコルを確立していく。
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Causes of Carryover |
本研究に用いている拡張型心筋症モデルマウスの繁殖能力が著しく低下し、実験計画遂行が遅れた。そのため、使用を予定していた試薬等の消耗品を購入せず、人件費も支出しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
拡張型心筋症モデルマウスの繁殖方法について見直し、計画を遅滞なく行えるようにする。その上で引き続き平成27年度の研究計画であった自発運動の効果におけるメカニズム解明を遂行する。その過程において、必要な試薬等を使用額にあてていく。
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Research Products
(5 results)