2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞膜透過性光分解性保護基の開発と多機能型Bhc-ケージド化合物への応用
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15K16568
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
鈴木 商信 東邦大学, 理学部, 博士研究員 (30532105)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ケージド化合物 / 細胞膜透過性ペプチド / クリックケミストリー |
Outline of Annual Research Achievements |
セカンドメッセンジャーのケージド化合物を始めとして、使用の際に細胞内に導入する必要があるケージド化合物は数多く存在する。しかし、ケージド化合物の細胞膜透過性は、生理活性分子の水溶性や分子量に大きく依存するため、多種多様なケージド化合物を安定して細胞内に導入することは極めて難しい。本研究は、光分解性保護基であるBhc基に細胞膜透過性ペプチド等を導入することで、光分解性保護基自体に細胞膜透過能をもたせ、そのケージド化合物を安定して細胞内に導入する方法を確立することが目的である。 Bhc基に細胞膜透過性を付与する機能性分子を導入し、なおかつケージド化合物の細胞膜透過性を簡便に判別するため、始めに8位にアルキンを導入したBhc基を合成し、そのケージド蛍光物質(ケージドフルオレセイン)を開発した。次に、アルキンを持つBhc-ケージドフルオレセインに、アジドを持つ膜透過性ペプチド(Arg8)をフイスゲン反応させた化合物を合成した。これらの化合物は、試験管内において、350 nmの紫外光の照射により、青色励起で緑色の蛍光を発する物質を生じ、ケージドフルオレセインとして機能していることがわかった。続いて、生細胞を用いてケージドフルオレセインの細胞膜透過性を評価した。化合物を細胞外液に導入後、細胞を洗浄し、紫外光を照射した。蛍光顕微鏡にて細胞の蛍光像を観察した結果、膜透過性ペプチドをフイスゲン反応で導入した化合物のみで、紫外光照射領域の細胞が緑色蛍光で染色されることがわかった。Bhc基自体が持つ水色の蛍光にてBhc基の分布を観察した結果、化合物未導入の細胞と比較し、細胞膜透過性ペプチドを導入したBhcケージドフルオレセインは、細胞が水色蛍光で染色されていた。以上の結果は、Bhc基に細胞膜透過性を付与することで、ケージド化合物が細胞膜透過性を持つようになることを強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞膜透過性光分解性保護基の概念実証を行うにあたり、細胞膜透過性を蛍光測定で簡便に評価する系を構築するため、8位修飾Bhc基によるケージドフルオレセインを開発した。しかし、Bhc基とフルオレセインを炭酸エステルで直接結合させた化合物は、細胞膜透過性ペプチドを導入する反応でBhc基とフルオレセインとの結合が切断されてしまうことが判明した。この化合物では研究が大幅に遅滞する可能性が高いと判断し、Bhc基との間にN,N'-ジメチルエチレンジアミンのリンカーを挟むことで、安定なケージドフルオレセインを新たに開発した。この化合物にフイスゲン反応を行うことで細胞膜透過性ペプチドがBhc基に導入されたと推定されるケージドフルオレセインを得た。これらの化合物は、試験管内において、350 nmの照射により徐々に緑色蛍光を生じた。リンカーの脱離反応があるため、光照射後から蛍光の最高強度に至るまでに15分前後必要とするものの、ケージドフルオレセインとして機能していることがわかった。 続いて、これらのケージドフルオレセインの細胞膜透過性を、HeLa細胞を用いた蛍光顕微鏡による蛍光測定で評価した。細胞外にケージドフルオレセインを導入し、細胞を複数回洗浄後、視野内の細胞に紫外光を照射・細胞を洗浄し、紫外光照射領域の緑色蛍光を観察した。その結果、細胞膜透過性ペプチドを反応させたケージドフルオレセインのみで、紫外光照射領域の細胞が蛍光染色された。Bhc基は、それ自体が僅かに水色の蛍光を発するが、ケージド化合物未導入の細胞と比較すると、細胞膜透過性ペプチドを導入したケージド化合物は、細胞が水色蛍光で染色されていた。これらの結果は、細胞膜透過性ペプチドを導入することで、Bhc-ケージドフルオレセインが細胞膜透過能を獲得したことを強く示唆するものであり、現在、質量分析によりこの物質の確認を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞膜透過性ペプチドのBhc基への導入は、細胞膜透過性のケージド化合物を開発する上で極めて有望であると考えられる。今後は、まず、この化合物が、本当に細胞膜透過性ペプチドが結合したケージドフルオレセインかどうかを、質量分析、可能であればNMRにより同定する。2015年度は、アジドを持つアルギニン8個 (Arg8)のペプチドによる概念実証を行ったが、Arg12のペプチド、またチオール基を持つArg8、Arg12ペプチドの受託合成が完了しており、2016年度はポリアルギニンの長さにより細胞導入効率が変化するかどうかを検討する。また、現在までに、末端にチオール基を持つBhc-ケージドフルオレセインの開発に成功しており、ポリアルギニンペプチドをジスルフィドで結合させたBhc-ケージドフルオレセインの開発も行う。 続いて、細胞膜透過性ペプチドが導入されたBhc基の応用範囲を広げる。まずはフルオレセイン以外のケージド化合物に、同様の方法で細胞膜透過性を付与できるかを検討する。最近、サイクリックAMP (cAMP)の濃度上昇を蛍光変化で観察可能な系が研究室で立ち上がったため、cAMPのケージド化合物に細胞膜透過性を付与できるかどうかの検討を行いたい。本科研費のエフォート外の研究では、細胞種選択的に光分解能を獲得するケージド化合物の開発を行っているが、細胞腫選択性の発揮にはケージド化合物が細胞膜を透過することが必要である。cAMPのケージド化合物への細胞膜透過性は、細胞腫選択的に活性化されるケージドcAMPの開発にも応用したいと考えている。細胞膜透過性ペプチド結合型Bhc基による細胞膜透過性ケージド化合物 (フルオレセイン、cAMP)の開発に関しては、本科研費独自の研究成果として論文発表を行う予定である。
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Causes of Carryover |
細胞膜透過性光分解性保護基の実証実験を行うにあたり、リン酸基を持つ生理活性分子の標的として、イノシトール三リン酸を第一の選択として考えていた。しかし、サイクリックAMP の濃度上昇を蛍光変化で観察可能な系が、私が所属する研究室にて立ち上がったため、イノシトール三リン酸のケージド化合物よりも合成が容易なケージドサイクリックAMPにて、細胞膜透過性光分解性保護基の実証実験を行うことにした。よって、本年度は、イノシトール三リン酸を購入しなかったため、その購入金額分に相当する金額が、使用額の差額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ケージドイノシトール三リン酸の合成及びアッセイは、細胞膜透過性光分解性保護基の応用実験として行うことを考えている。細胞膜透過性光分解性保護基の開発は順調に進んでおり、実証実験終了後の応用実験までも視野に入ってきたため、原料としてのイノシトール三リン酸の購入は、本年度に行う予定である。科研費の使用状況に関しても、イノシトール三リン酸の購入が年度で前後したが、概ね申請書の計画通りに使用されていると考えており、今年度も計画通りに使用する予定である。
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