2017 Fiscal Year Research-status Report
湾岸アラブ諸国の勃興による現代アラビア語の変容と国際化
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15K16579
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
竹田 敏之 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任准教授 (40588894)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アラビア語 / 湾岸諸国 / 新語 / メディア / イスラーム地域研究 / クルアーン |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、研究計画にそって次の4項目にわたる研究活動を行った。 1.「中東・イスラーム地域研究のためのアラビア語」を主題とした教科書の刊行に向け、共著者との協議を重ねながら執筆・編集作業を進めた。具体的には、除外詞「スィワー」、辞詞「イイヤー」と人称代名詞の対格分離形、辞詞「イズ」、主題構文(トピックセンテンス)といった文法項目の解説を執筆し、本研究で構築してきた語彙・表現データを活用しながら用例を作成した。 2.アラビア語研究および出版に関する「湾岸求心力」の展開について、辞書編纂とその関連プロジェクトの現代的動向に注目し、特に2013年に刊行されたアラビア語辞書『ガニー・ザーヒル アラビア語辞典』(「ムハンマド・イブン・ラーシド・アール・マクトゥーム協会〔ドバイ〕」による助成出版)を対象とした収録語彙の分析と考察を進めた。その成果を書評という形で公表した。 3.湾岸諸国におけるラスム学(クルアーン綴字法)の史的展開とその教育に関する現況について、シャルジャ文化情報庁のムハンマド・アミーン氏(研究出版部門)による知見の提供と協力を得ながら、研究動向の把握と関連書籍および論文・資料の収集を進めた。 4.湾岸メディア(衛星放送、インターネット、SNS)を通じて生み出される新語や若者ことばを収集し、形態的・意味的観点からその特徴について分析を行った。また、同メディアにおける口語(地域方言)使用についても実例を収集し、湾岸諸国の伝統意識と国民アイデンティティの形成という観点から考察を加えた。さらに、湾岸地域におけるメディアアラビア語(Media Arabic)の規範整備について、カタルの衛星放送局アルジャズィーラの取り組みを事例に、同局公認のマニュアル本の分析を進めた。これまでの作業による語彙データの一部とその分析結果を、日本中東学会の年次大会(第33回)で研究成果として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
達成度について、以下の点から順調な進展と自己評価した。 1.湾岸メディアを対象とした新語・若者ことばの収集およびデータ構築と分析作業が順調に進んだ。 2.臨地調査は延期することになったが、現代アラビア語の地域差(特に湾岸諸国とマグリブ諸国)の解明に向けた基礎文献、辞書類・専門用語集の収集、ならびにメディアを通じた語彙データの構築とその比較考察は順調に進んでおり、最終年度に向けた研究上の道筋が具体化してきた。 3.上記1と2で得られたデータを活用することで、執筆中のアラビア語教科書における文法項目と用例を、より斬新かつ充実したレベルへと発展・拡張することが可能となった。また、編纂作業も円滑に進んでおり、次年度中の刊行に見通しが立った。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、以下の3点を軸に研究を遂行する。 1.湾岸諸国におけるラスム学(クルアーン綴字法)の興隆と現代アラビア語へのその影響について、サウディアラビアの王立クルアーン印刷所による知的生産力の拡大に注目しながら、正書法の伝統的規範と変容の実態を明らかにし論考にまとめる。 2.現代アラビア語の国際化について、湾岸諸国とマグリブ地域の連関および双方向の影響を明らかにする。そのために、両地域の出版状況(湾岸系出版社のマグリブ地域への進出と影響/湾岸地域におけるマグリブ系著作の校訂・出版の広まり〔特に文法学・ラスム学関連〕)、および双方を結ぶアラビア語研究ネットワークの解明を目的とした臨地調査を実施する。 3.研究の総括を行い、本課題の目標の一つである「地域研究のためのアラビア語教育」を主眼に置いた教科書を今年度中に完成させ刊行する。
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Causes of Carryover |
予定していた臨地調査(2月~3月)を健康上の理由により翌年度に延期したことで、平成29年度の旅費が未使用額として繰り越されることになった。 平成30年度にあらためて臨地調査を実施する計画で現在調整を行っている。
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Research Products
(5 results)