2017 Fiscal Year Research-status Report
米国における福祉権運動の展開 -人種、階級、ジェンダーの交錯
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15K16587
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
土屋 和代 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (60555621)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | アメリカ合衆国 / 福祉 / 貧困 / 人種 / ジェンダー / 社会保障 / 黒人解放運動 / フェミニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
まず2017年8月10日から17日にかけてカリフォルニア大学ロスアンジェルス校を中心に研究調査を行い、全米福祉権団体に関する史料の他、ロスアンジェルスの黒人、ラティーノ居住区、及び1970年代以降の格差の拡大と貧困に関連する史料の収集を行った。今までの調査に基づき、以下の三側面に注目し研究を進めた。 (1)生存権をめぐる闘争―公民権運動と福祉権運動(継続):公民権運動及び同時代に展開した貧困対策事業から派生し、公民権運動が遺した課題に取り組んだNWROはどのように福祉を「権利」として書き換えたのか。厳寒のなか通学する際の防寒着を購入する権利や真冬の暖房費を得る権利や家賃滞納による退去に抗う権利など、日々の生活の場(衣食住)における活動の分析を通して、NWROが目指した「福祉権/生存権」とはいかなるものであったのかを検討した。 (2)誰のための『福祉』か―保証所得をめぐって(継続):1969年8月8日、リチャード・ニクソンは児童を扶養する全ての家族に年間1,600ドル(四人家族の場合)を給付する計画を発表した。保証所得をめぐる議論の出発点にどのような矛盾と亀裂が孕まれていたのか、なぜ「保証所得」が60年代末のアメリカで内政の最重要課題として浮上したのか、そしてNWROがなぜ家族支援計画を拒み批判したのかを明らかにした。 (3)全米福祉権団体の終焉:G・ワイリーら黒人ミドルクラス男性の指導者と、J・ティルモンら福祉受給者のシングルマザーとの間に活動の優先順位をめぐっていかなるくい違いが生まれたのか、両者の齟齬は NWRO にいかなる亀裂を生じさせ、組織を解体に導く一因となったのかを検討する。 上記に加えて、多人種都市ロスアンジェルスの歴史を描く試みとして、1992年に起きたロスアンジェルス蜂起に注目し、蜂起に至る背景とその歴史的位置づけを同時代の史料から考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)の内容について、西洋史学会・小シンポジウム3「黒人女性の視点から再評価する公民権運動 ―人種、ジェンダー、階層、宗教による差別解消と正義を求める運動との有機的関連」(一橋大学、2017年5月21日)にて報告を行った。 また、(2)の研究内容についてはアメリカ学会第51回年次大会・部会B「アメリカ型福祉国家再考」(早稲田大学、2017年6月4日)にて報告した。 両報告をもとに論文を執筆した(「生存権・保証所得・ブラックフェミニズム―アメリカの福祉権運動と〈一九六八〉」『思想』1129号(2018年5月)、105-29頁)。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は(3)(本課題の最終章)について史料を読み、研究を進める予定である。また、「福祉」をめぐってその後アメリカ社会にどのような亀裂が生じたのかを考察し、同時に全米福祉権団体の消滅後、どのような組織が形を変えて新たに誕生したのかを検討する。 上記のテーマに加えて、1992年ロスアンジェルス蜂起をめぐる表象の政治をテーマに報告を行い(東京大学大学院総合文化研究科地域文化研究専攻シンポジウム、2018年6月30日)、論文にまとめる予定である。
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