2015 Fiscal Year Research-status Report
サービスの設計段階からプライバシー保護を実現する思想的基盤構築のための学際的研究
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15K16602
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
川口 嘉奈子 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 助教 (10706906)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プライバシー / 情報倫理学 / 信頼 / サービス設計 / ICT |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、哲学・情報倫理学的見地から「プライバシー侵害」とよばれる状態を明確に記述することにより、個人の行動や状態を記録したデータを利用するサービス上で適切なプライバシー保護を実現するための思想的基盤を、技術者と利用者にわかりやすく提示することを目的とする。 この研究目的達成のため、本研究は以下の4項目を中心に構成されている。 (1) プライバシー侵害における「害」と「不快感」に着目し、「保護すべきプライバシー」を明確化する (2) サービスの設計段階にプライバシー保護機能を組み込むための思想的基盤をつくる (3) 既存のICTサービスにおいて、必要な「プライバシー保護」を実現する技術的対応を提案する (4) 技術者と利用者にわかりやすい仕方で「プライバシーとは何か」を記述する 以上の(1)~(4)のうち、当該年度においては、(1)および(2)に関連して、情報を取り扱う企業や団体が私たちのプライバシーを保護してくれるというある種の「信頼」関係が成立するという状態の解明に着目して研究を行った。すなわち、プライバシーの概念分析の重要性はさることながら、技術者や利用者にわかりやすい形のプライバシー保護の説明において、リスクや信頼といったより親しみやすい語や概念を用いて置き換えることが望ましいからである。当該年度以降もこの「信頼」に着目したアプローチを継続しながら、プライバシーのわかりやすい説明につながる他のアプローチについても順次考察を重ねる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画において、初年度に予定していた研究内容は、個人の行動や状態を記録したデータを扱うサービスにおけるプライバシー保護要件を明確にするために、哲学・情報倫理学的知見を中心としたプライバシーの理論的研究を行う、といったものであった。この点については、「プライバシーを明確に記述できないという問題の克服」がとりわけ重要な課題である。すなわち、「プライバシー」を定義しようとすると、「ある人への接触が何らかの仕方で制限されている状態や状況」(Schoeman(1984))、「多義的で文脈的なもの」(Nissenbaum(2004))のようにきわめて曖昧な表現になる。したがって、「プライバシー」に単一的な定義を与えることで扱いやすくしようとするアプローチは本質的な問題を含んでいると考えられる。 当初の予定では、「プライバシー侵害」状態の分析を中心的に行う予定であったが、ICTサービス利用者や技術者にわかりやすい仕方でプライバシーを説明する、という本研究の大目的を鑑み、「私たちの情報を取り扱う企業や団体が、私たちのプライバシーを保護してくれるという状態が成立するとはどのようなことか」という状態の分析を行うことに方針を切り替え、その研究成果が一定のまとまりを得たので学会の研究会において発表を行い論文を執筆した。 また同時に、サービス利用者がプライバシーやプライバシー侵害と感じるときはどのようなときか、という社会心理学的アプローチを用いたアンケート調査を行い、情報倫理学・情報工学・社会心理学者による学際的な研究成果をまとめた共著論文を国際会議に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度以降も当初の研究計画に沿って研究を進める予定である。ただし、27年度にスタートした、プライバシーの説明を「信頼」を用いて行うアプローチについても継続的に研究を行う。 本研究は、暗号等を用いる技術的解決とは異なる本質的なアプローチで、データを利用するすべてのサービスのプライバシー保護に応用するための研究である。28年度以降はとりわけ、「保護すべきプライバシー」を、サービスやシステムの設計段階から事前的にプライバシーを保護するために要件の形で提示することに注力する。ICTサービス運用において、サービスやシステムの設計段階から事前的にプライバシーを保護することは重要で、プライバシーのように人間にとって重要な価値の保全を実現する事前的な仕組みづくりは、情報倫理学の領域では「価値を意識した設計」(van der Hoven(2009), Friedman(1996))が重要であると以前から論じられてきている。このために必要な基礎的研究及び、誰にでもわかるプライバシーやその価値の説明の練度を上げることを28年度の最大の目標とする。
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Causes of Carryover |
人件費・及び謝金を必要とする調査を次年度以降に持ち越したため差額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降に開催予定のWGやシンポジウム、研究会等の謝金及び事務にかかる人件費として使用する予定である。
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