2016 Fiscal Year Research-status Report
消極的安楽死の合法化が社会的弱者に及ぼしうる否定的影響に関する倫理学研究
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15K16607
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
有馬 斉 横浜市立大学, 国際総合科学部(八景キャンパス), 准教授 (50516888)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 終末期医療 / 安楽死 / 尊厳死 / 自殺幇助 / 生命の内在的価値 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、国内では人工呼吸器などの延命治療の中止により末期がん患者や神経難病患者らが死亡し、場合によっては刑事介入がおきるなどの事件に発展したケースが相次いでいる。延命治療の中止や差し控えの倫理的妥当性や許容条件を明らかにすることは重要な課題である。とくに本研究では、延命治療の中止や差し控えが合法化された場合に、障害者や高齢者低所得者等の社会的弱者が家族や医療者といった周囲の人々からの心理的圧力のもとに本来の意図に反して延命を諦めることになる可能性があるとする合法化批判論について検討することを主な目的とする。 2016年度は、国の医療全体とくにその中でも高齢者医療費が高騰していることを理由に終末期の延命技術の利用を制限するべきであるといったタイプの議論の妥当性について、昨年度から研究を継続させ、雑誌連載論文として完結させることができた。 また、国内でこれまでに実際に起きた事例について、道徳的な評価をする際に重要と目されることの多い点に即して整理し、学術雑誌の論文としてまとめた。 また、人を死なせたり殺したりすることが、本人の意向に反せず、また本人の福利を損なうこともない場合、それでも道徳的に正当化できないとするタイプの主張について妥当性を検討した。このためとくに「人命の内在的価値」という概念に注目し、先行文献を調べた。 これらを含む研究の成果の一部は、英文学会誌論文、和文雑誌論文、記事、英文百科事典項目等として出版した。また、学会年次大会における研究報告や、学会での招待講演などとして公にした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度以降は、安楽死等の合法化が社会的弱者にリスクを強いる仕組みに関する前年度までの研究成果を踏まえて、主としてそのリスクの意義について考察を進める計画だった。2016年度は実際にこの目的のために研究を進めることができた。とくに高齢者や機能障害者について、他の患者集団と比べても、延命治療の中止や停止、致死薬投与等が、許容されやすいとするタイプの主張について妥当性を検討した。また、成果としても、英文学会誌、和文学術誌、英文百科事典の項目等として、出版することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き終末期医療の倫理に関するルールのありようについて、その根拠となる考え方を、賛成派と反対派から提出されてきた議論を吟味しながら検討を進めていく予定である。とくに2017年度は13th International Conference on Clinical Ethics Consulationがシンガポールで開催され、そこでキーノートスピーチを行う。日本国内における倫理的な議論やガイドライン等について講演する予定である。
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Causes of Carryover |
残高がそれほど高額ではなかった(86,858円)ため、次年度使用額とした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
それほど高額ではない(86,858円)ため、特別な使用計画はないが、次年度の本来の計画に沿って適正に使用していく計画である。
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