2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16609
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
佐々木 雄大 玉川大学, 農学部, 非常勤講師 (40598637)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | エコノミー / 概念史 / 有用性 / モラル・エコノミー / 自然のエコノミー / エコロジー / 習慣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の初年度である平成27年度の研究実績は、以下の観点から、「エコノミーの概念史」のための予備的な前提を解明したことにある。 第一に、歴史的に変遷するエコノミー概念の基底的な意味として「有用性」が存することを解明した。西洋思想におけるエコノミーは、家政や救済史、神の世界運営、生物の有機的組織といったように、様々な意味を担っていた。しかし、浪費や贈与といった非有用性を射程に入れるバタイユの「一般エコノミー」との比較検討を通じて、それらの歴史的に多様な意味の根底には、目的-手段連関の形式に従った「有用性」がつねに横たわっていることが剔抉された。 第二に、ギリシャ語からラテン語への翻訳過程の分析を通じて、概念相互の輻輳的な関係を解明した。それによれば、通常、ギリシャ語oikonomiaの訳語とされるラテン語dispositioには、それ以外の意味、すなわち態勢(diathesis)や配置(diataxis)などの意味が流入しており、そのため、中世においてエコノミーと習慣(ハビトゥス)との概念レベルでの連結が生じていることが明らかになった。 第三に、多様なエコノミーから近代的な経済への意味の収斂を跡づけるための予備的考察として、近代の経済以外の意味におけるエコノミー概念の展開を検討した。具体的に言えば、自由市場経済の言説であるポリティカル・エコノミーと対置される説明概念「モラル・エコノミー」を、歴史的概念として概念史の内に位置づけ、その神学的な起源を明らかにした。また、「自然のエコノミー」から生態学としてのエコロジーやエコシステムへと至る思想潮流を検討した。 くわえて、平成29年に出版予定である「エコノミーの概念史」を主題とする図書のための準備作業と、未邦訳の基本的文献の翻訳を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
後に示すように、雑誌論文の寄稿や自らの所属する研究会での発表という形で成果を出すことができた。ただし、当初想定していた以上に、原典資料や関連研究書の収集に時間がかかってしまったため、初年度の計画にあったギリシャ語からラテン語へ、ラテン語から近代諸語への翻訳過程の比較検討が十分になされておらず、これに関する論考を発表できていないため、課題の達成は次年度以降に持ち越されている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、初年度に把握されたエコノミーの基底的意味としての有用性、翻訳過程における概念間の輻輳的関係、経済以外の意味におけるエコノミー概念の発展を基点として、初年度の計画で未達成であったラテン語から近代諸語への翻訳過程の考察を補完しつつ、多様なエコノミー概念が近代的な経済へと収斂していく過程を計画通り探究する。 また初年度に引き続き、平成29年出版予定の「エコノミーの概念史」を主題とする図書のための執筆作業と、未邦訳の基本的文献の翻訳を進める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、まず、当初想定した以上に資料の収集に時間がかかったため、図書の購入が予定より少なかったこと、また、初年度ということもあり、研究成果が学会発表の水準にまでは達しなかったため、学会などへの出張を行なわなかったので旅費が発生しなかったことが挙げられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額と次年度に請求する研究費を合わせた使用計画としては、図書の購入を増やすこと、また、学会への参加のための旅費に使用することを計画している。
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Research Products
(3 results)