2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16610
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
長綱 啓典 帝京大学, 総合教育センター, 講師 (00646482)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ライプニッツ / サン・ピエール / ホッブズ / 神聖ローマ帝国 / 身分制的連邦国家論 / ヨーロッパの一と諸国家の多 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は平成25年度~平成26年度科学研究費若手研究(B)「ライプニッツの公共の福祉論」(課題番号:25770012)による成果を踏まえ、G・W・ライプニッツ(1646‐1716)の政治論に関する知見をさらに発展させることを意図するものである。 ライプニッツによれば、自然法は厳格法、衡平、敬虔からなる。後者ふたつが世俗的および永遠的な公共の福祉の実現を命じるのに対して、厳格法は、公共の福祉そのものではないが、その成立条件として国家内外の平和を命じる。本研究はこの「平和」、とくに「ヨーロッパにおける平和の創出」という観点から、当時のいわゆるドイツ国民の神聖ローマ帝国国制に関するライプニッツの見解を分析しようとするものである。 1648年のウェストファリア条約以後、神聖ローマ帝国の国制に関して、それは君主制なのか、寡頭制なのか、貴族政なのか、という論争がなされた。そのような状況のなか、ライプニッツは伝統的なアリストテレス的国家形態論から自らを解放し、領邦君主の独立によって帝国の国家としての統一性が排除されるわけではないという見解を主張した。これによって根拠づけられたのが、「身分制的連邦国家」論であった。 本研究はライプニッツの「身分制的連邦国家」論を分析するにあたり、そこに見出される「(ヨーロッパの)一」と「(諸国家)の多」との関係に注目した。従来の解釈では、ライプニッツの「身分制的連邦国家」論において「一」と「多」の関係を規定しているのはもっぱら「勢力均衡」の原理だとされてきた。しかし、本研究は、それだけではなく、ライプニッツの議論におけるまさに「身分制」的な側面をも重視する。「勢力均衡」という新しい原理だけではなく、伝統的な「身分制」を部分的に保持することによって、ライプニッツは独特な仕方で「一」と「多」の釣り合いを提示することができたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は平成27年度の研究計画として以下の2点を設定していた。1.『ドイツ諸侯の主権と使節権』をメインテクストとして設定し、ライプニッツの神聖ローマ帝国理解にみられる連邦国家論の固有性を明らかにする。2.『フィラレートとユジェーヌの対話』をサブテクストとして設定し、ライプニッツの連邦国家論の固有性を明らかにするための補助とする。 1と2について、所期の目的はおおむね達成されたとみなすことができるであろう。『ドイツ諸侯の主権と使節権』と『フィラレートとユジェーヌの対話』、どちらについても連邦国家論に関連する部分は読了することができた。その結果、ライプニッツの連邦国家論において「勢力均衡」だけではなく伝統的な「身分制」もヨーロッパの平和の創出に一役買いうるとライプニッツが考えていたことが明らかになった。 また、平成28年度以降の研究計画として、「サン・ピエール師の永久平和計画にかんする所見」を読解し、ライプニッツとサン・ピエールの神聖ローマ帝国理解の差異を鮮明にすることを設定していたが、こちらも目的を達成することができた。 ただし、平成27年度に海外から研究者をひとり招聘し、講演会ないし研究会を開催する予定であったが、これを果たすことができなかった。この点は平成28年度にぜひ実現させたい。 以上から、本研究の現在までの進捗状況について、「おおむね順調に進展している」と評価されうるであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
上記「現在までの進捗状況」でも述べたように、平成27年度には海外からライプニッツ研究者を招聘することができなかった。平成28年度にはぜひ海外からライプニッツ研究者を招き、ライプニッツの神聖ローマ帝国国制論、それに基づくヨーロッパ平和論、さらには平和の上に築かれる公共の福祉論についての知見を広げたい。具体的には、ドイツ・ポツダムのライプニッツ全集編纂所員として長年にわたって活躍しているシュテファン・ヴァルトホッフ博士に協力を仰ぐ予定である。 また、研究計画通り、平成28年度にはサン・ピエールの『永久平和論』を精読し、ライプニッツとサン・ピエールの神聖ローマ帝国理解の差異をより鮮明にすることを試みる。
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Causes of Carryover |
平成27年度の研究計画では、海外から一名研究者を招聘する予定であったが、これを実現することができなかった。そのため、海外からの渡航費および滞在費に当てていた約27万円が次年度使用額として生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は海外から研究者を一名もしくは二名招聘し、講演会や研究会などを開催したい。今回の次年度使用額はそのために利用する予定である。
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