2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16611
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
林 誓雄 福岡大学, 人文学部, 講師 (20736623)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ヒューム / 非アリストテレス的徳倫理学 / 価値観の多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度、当初の計画では、ヒュームにおける「正しい行為」の説明ないしその規定について考察する予定であったが、昨年度の研究成果を踏まえると、その関連性の強さから、翌年(H.29)度の研究課題「徳の統一性テーゼ」をどの程度認めるのかの検討を、先に遂行した方が合理的と判断し、一部計画を入れ替えて、研究を遂行した。 「徳の統一性テーゼ」、すなわち徳どうしが統一的に関連し合っているということを支持するテーゼであり、このテーゼに従うと、ある人物に何らかの徳(例えば “誠実さ”)を一つでも認める場合、われわれは、その他の徳(例えば “勇敢さ” や “気前のよさ”)をも芋づる式にその人物に帰すことになる。ただしこのテーゼは基本的に、アリストテレスにおける「プロネーシス(思慮)」があるからこそ成立すると考えられるが、ヒュームには「プロネーシス」のようなものが明示的には見られない。ただし、先行研究では、ヒュームのテキストを細かく読み解くと、プロネーシスに相当しうる「master virtue」が論じられていると解釈されることもあり、その妥当性を、やはりテキストに即して検討した。 その結果、やはりヒュームにプロネーシス的なものを認めることはできず、しかしそうであるがゆえに、人間の生き方の多様性を認めること、そして、異文化に対する寛容な理解の促進こそが、有徳な生き方であることが示唆されていることを浮き彫りにすることができた。それと同時に、これまで「徳倫理学」の中心にあるとされるアリストテレス流の理論ではない、この価値観の多様化した現代にこそふさわしい理論を論じているヒュームの重要性を指摘できた点で、本研究は倫理学業界に対して重大な示唆を与えたものと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、当初遂行するはずであった「正しい行為」についての考察を保留し、先に、翌年度遂行予定の「徳の統一性テーゼ」についての検討を行なった。これは、昨年度の研究成果によって、計画を一部変更して研究を進めることが合理的と判断されたためである。そしてその結果、一定の成果を出すことができたと考えている。 以上のように、一部計画についての変更は生じたものの、全体としてみれば、本研究は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
すでに記載しているが、H.28年度の研究計画を一部変更し、先にH.29年度の計画を遂行し、一定の成果を出した。そのため、今後の研究方針としては、残されているH.28年度の研究計画を遂行する予定である。
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