2016 Fiscal Year Research-status Report
『分析手帖』の研究―1960年代フランスにおける「概念の哲学」の発展
Project/Area Number |
15K16612
|
Research Institution | Kyoto Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
坂本 尚志 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (60635142)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 分析手帖 / 概念の哲学 / エピステモロジー / 認識論サークル / ヘーゲル / スピノザ / カンギレム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1960年代に10号が刊行された『分析手帖』を出発点として、フランス思想における「概念の哲学」の系譜を明らかにすることを目指している。本年度の成果は以下の3点にまとめられる。 1.前年度に取り組んだ『分析手帖』の全容を明らかにする作業の成果を、論文ならびに共著として公刊した。この成果は、これまで断片的にしか全容の知られてこなかった『分析手帖』刊行の背景、その内容を、20世紀フランスにおけるスピノザルネサンスとの関連を考慮に入れつつ明らかにしたものである。特に、「概念の哲学」の諸潮流の合流点としての『分析手帖』が、数理哲学や精神分析という二つの領域の間に存在する共通の問題と、それに対する異なる解決策を提示する論争の場であることを明確に示した。 2.『分析手帖』の主要な研究領域のひとつである、エピステモロジーとスピノザ、ヘーゲルの関係について、ジョルジュ・カンギレムの思想を対象として分析を行い、その成果を共著として公刊した。特に、カンギレムにおける「概念の哲学」と「生命の哲学」の関係について、ヘーゲルとスピノザとの異同を検討しつつ論じた。カンギレムは『分析手帖』を刊行したエピステモロジーサークルに大きな思想的影響を与えている。ゆえに、その思想がスピノザならびにヘーゲルといかなる関係を持っているかを明らかにすることは、『分析手帖』が生まれた思想的背景を理解するために不可欠な作業である。 3.日本における『分析手帖』研究を一層進めるための基礎的資料として、『分析手帖』研究の課題をまとめた論文を刊行するとともに、その付録として各号の目次と編集委員会メンバーの日本語訳を作成した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画は予備的研究、個別研究、比較研究、総合研究の4種から成っている。 1.予備的研究については『分析手帖』の全容をまとめる成果を公表することができた。また、目次の翻訳など、研究資料の整理にも取り組んだ。 2.個別研究、3.比較研究についても、エピステモロジーを対象とした研究を行い、その成果も公表することができた。 4.総合研究の一貫として、2年間の研究の小括を行い、現在の『分析手帖』研究の課題を示す研究ノートを刊行した。 以上をもって、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究課題としては「概念の哲学」と政治的なものの関係を明らかにすることが挙げられる。 『分析手帖』は、同時代の政治状況からは距離を置きつつ刊行されていたように見えるものの、主要メンバーは『分析手帖』刊行期間の前後に活発な政治活動に身を投じていた。政治的なものの不在は、逆説的に、彼らにとっての政治の重要性を明らかにしている。ゆえに、『分析手帖』が属する「概念の哲学」の潮流と政治的なものの関係を明らかにする研究が、本研究の推進のためには必要である。 その方法として、『分析手帖』刊行前に主要メンバーが属していた共産主義学生同盟の機関誌『マルクス=レーニン主義手帖』の調査を行う。『分析手帖』の刊行は、この共産主義学生同盟との決別がひとつの契機であった。この経緯がいかなるものであったかを、資料調査とその分析により明らかにすることを試みる。特に、この決別は文学論をめぐる政治的立場の違いから生起したものであったため、文学と政治という問題系を視野に入れつつ、二つの『手帖』の関係を描き出すことを目指す。 こうした手法によって、『分析手帖』の意義を総合的に明らかにすることを試みる。
|
Causes of Carryover |
当初計画では当該年度に海外調査を行う予定であったが、国内における調査研究ならびに成果発表を優先し、海外調査については次年度以降に実行することとしたために、次年度使用額が発生した。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
海外調査の渡航費、滞在費、ならびに現地での資料収集費の一部として使用する予定である。
|