2015 Fiscal Year Research-status Report
現代精神医療倫理におけるラカン派精神分析思想の位置づけと意義に関する研究
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15K16614
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
上尾 真道 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (00588048)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ラカン / エピステモロジー / 構造主義 / ストア哲学 / ドゥルーズ / 自閉症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、後期近代の精神医療体制における倫理的課題との関係から、ラカン派精神分析理論を読解・整理し、その位置づけと意義を明らかにすることである。このために平成27年度には、第一に、60-70年代ジャック・ラカンの精神分析理論の読解作業を行った。まず60-70年代のエピステモロジー思想の潮流との関連から、論理学や数学への関心を深めた後期ラカン理論の内実を解明した。また、構造主義の枠組みの内部におけるストア派哲学への関心という共通点を手掛かりとして、ラカンと同時代の哲学者ドゥルーズとの理論的照応関係を明らかにする作業を行った。これらの研究から、後期ラカン理論における「真理」概念の重要性、またこの概念が「症状」概念とのあいだに持つ強い関係が明らかになった。さらにラカン理解の促進という面からは現代アメリカの分析家ブルース・フィンクによるラカン解説書の翻訳を行い刊行したほか、解説としてアメリカ・日本における60-70年代のラカン受容の捉え返しも行い、これまで光の当たらなかったラカン受容史の一幕を明らかにした。 第二に、ラカン没後のラカン派精神分析の理論発展にかかわる調査を実施した。そのために、現代において注目すべき病理としての「自閉症」論に着目して、その一般的な歴史を整理すると同時に、ラカン派精神分析内部でのその後の議論発展について調査した。このテーマのもと年度内に2度の研究会を行い、自身と招待研究者とによる研究報告および討論を行った。そこでは代表者は、70年前後における病理パラダイムの変化という論点を確認し、その上でラカン派精神分析の身体論的側面を深めることの重要性が明確化された。また資料調査のための渡仏では、ラカンが所属した幾つかの組織の機関紙や、70年代以降のラカン派精神分析の雑誌など、ラカン理論の現代的意義の解明にとって貴重な資料を手に入れることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画にあった後期ラカンの理論整理と、ラカン以後の理論発展にかかわる資料調査については、可能な範囲で申し分なく進めることができた。ただし、入手した雑誌資料などに基づいた体系的な整理と考察についてはまだ行き届かない点が残った。他方、その代りに、二年目に行う予定の自閉症研究を先取り的に遂行することができたため、計画全体としては、概ね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の進め方としては、今年度と同じく、ラカンおよびその後のラカン派精神分析理論に関する資料調査と読解・整理を通じて、ラカン理論の現代的倫理的意義の解明を行っていく。当初の計画では二年度目に、行動主義との関係に取り組むはずであったが、すでに開始した自閉症論との関わりから、最終年度に予定していたラカンにおける環境概念に関わる研究を先取りして行う。また当初の予定にはなかった国際学会での発表を実施するために、研究計画の部分的な先取りを行って、現代的「発話」状況の理論(特にランシエール)と精神分析との関わりに関する研究を行っておく。以上を年度の前半に行い、後半から最終年度にかけて、ラカン以降の理論家の議論の体系的な整理に着手していくこととしたい。
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Research Products
(4 results)