2016 Fiscal Year Research-status Report
現代精神医療倫理におけるラカン派精神分析思想の位置づけと意義に関する研究
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15K16614
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
上尾 真道 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (00588048)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ジャック・ラカン / 享楽 / 真理 / 発達障害 / 自閉 / サントーム / ジャック・ランシエール / 平等 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は第一に、ラカンの60年代-70年代の理論における享楽理論の展開についての解明を行った。享楽の概念はラカンにおいて50年代の半ばから言及されてきたが、66年前後を機にはっきりと身体及び生命との関連が強調されるようになる。この理論的展開を明らかにするために、当時の科学的医学の進展という文脈を考慮に入れた上で、それに関するラカンの考察に影響を与えている、ユクスキュル-ハイデガーの環世界論との関わりを明らかにするよう努めた。さらにその点から後期ラカンのシニフィアン理論の展開について解明した。この成果は、これまでの一連のラカン読解の研究成果と合わせて、『ラカン 真理のパトス』と題する単著にまとめ刊行した。 第二にラカン派精神分析の現代的な議論の展開という観点から二つの活動を実施した。まず前年度より引き続き、現代のラカン派精神分析における精神病理理論の輪郭を明らかにするための研究会を実施した。そのうち自閉症論については、『発達障害の時代とラカン派精神分析』と題する論集として刊行の準備を整えた。さらに後期ラカンの病理概念として重要性が議論される「サントーム」について検討の場を設けた。また、70年代以降のラカン派精神分析の制度的実相を明らかにするために、フロイトの大義派の図書館を訪問し、当時の雑誌を中心に資料収集を実施した。 最後に、精神分析を現代の政治哲学と関連づける試みの端緒として、フロイトの集団理論とJ.ランシエールの政治哲学との比較を実施し、両者において「平等」のモチーフが政治的局面を構成する契機を考察した。これについては国際「精神分析と政治」学会にて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、主に64年から73年までのラカン理論について、その制度的・思想史的背景を踏まえた理論的意義の総括を行い、単著として刊行することができた。また現代のラカン派精神分析の観点における自閉症論について、共同研究を経て一つの視点を提示する論集を準備することができた。この二つの仕事を実施できた点で、本研究は大きく進展したと考えられる。さらにその上で、73年以降のラカン理論を同様の視角から読む作業に向けて、すでに必要な資料調査と基本的文献の読解の一部に着手することができたことから、続く29年度の研究の継続的実施のための極めて良好な条件が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は、主に73年以降のラカンの精神分析思想について、背景の精神医療制度や政治状況・思想史との関連から解明する作業を継続する。そのために当時の雑誌などの文献に当たるほか、73年以降に思想的転回を観察できる哲学者、特にミシェル・フーコーとジャック・ランシエールに注目して、ポスト73年の問題系の解明を遂行することとする。また精神医療制度の関連からは、現代の認知科学と関連も深い行動主義心理学の展開を考慮に入れつつ、ラカンの精神分析理論の倫理的意義の検討を行っていく。
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