2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16616
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安田 章紀 京都大学, こころの未来研究センター, 研究員 (40638607)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ドルジェリンパ / 中有 / ニンマ派 |
Outline of Annual Research Achievements |
チベット仏教を代表する4大宗派のうち、「ニンマ派」と呼ばれる宗派は、チベットからブータンへと越境し、そこで独自の歴史を辿って今日に至るまで大きな勢力を誇っている。ニンマ派の仏教をブータンに根づかせた功労者として、ロンチェンパ(1308-1363)、ドルジェリンパ(1346-1405)、ペマリンパ(1450-1521)の3人が挙げられる。このうち、ドルジェリンパはチベット生まれであるが、ブータンを訪問中、隠棲修行や埋蔵宝の発見などを通して多くの支持者を獲得し、併せて、現在まで存続する宗教的名門の家系をも残して、ブータンに巨大な足跡を印した。 1年次は、未だ謎に包まれているドルジェリンパの思想面の一端を解明すべく、彼の著作群のうちから、「中有」を主題とするものに焦点を当てて、文献学的研究を行った。 その結果、彼が「中有」という言葉を、人間が経験する種々の中間的・一時的状況に広く適用し、4つに分類していること。その1つ「迷える生存の中有」において、死者は尋常ならざる光景に直面させられるが、それに翻弄されず、それを自分の心がひとりでに現れ出たものにすぎないと見極めれば、それらは自然と消失するに至ること。そして、死者はラマに導かれて四方の仏国土を巡歴し、中央に位置する大日如来の国土に滞在後、一瞬にして普賢父母尊の国土に化生し、そこで仏陀となって、もはや輪廻に戻ることはない、と考えていることなどが判明した。 研究成果は、日本印度学仏教学会第66回学術大会(2015年9月20日、高野山大学)において、「中有に関するドルジェリンパの思想」という題目で口頭発表した。なお、同内容の論文が『印度学仏教学研究』(第64号)にて公になっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1年次は、当初、ペマリンパに関する研究を主として行う予定であったが、従来の筆者の研究との連絡を考えて、ドルジェリンパ研究を先に進めることとした。彼の著作目録の作成および思想研究は、予定を上回る速さで快調に進み、口頭発表と論文公表に漕ぎ着けることが出来たのは大きな成果であったが、一方、予定していた伝記の整理とフィールド研究を実施することが出来なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2年次も主として、1年次のドルジェリンパ研究を続行する。文献研究としては、彼の最も重要な作品2篇について、解読および文献学的解析を進め、ドルジェリンパの思想の核心に肉薄する。研究成果は、2年次中に学会および研究会で発表し、論文として公刊する。一方、遅れているフィールド研究についても、ドルジェリンパ関連の遺跡を中心として、2年次中にブータンにて実施予定である。
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Causes of Carryover |
1年次は予定していたブータンでのフィールド研究を実施することができず、それにともなって、旅費および謝金が大幅に不使用になった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費は、2015年中に出版された多数の関連書籍の購入に充てる。 旅費は、国際学会への出席およびブータンからの研究者招聘、さらに、ブータンでの実地調査および共同研究に充てる。
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