2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16621
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
南 宏信 佛教大学, 法然仏教学研究センター, 研究員 (80517003)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 浄土教 / 法然 / 『選択集』 / 聖冏 / 『決疑鈔直牒』 / 身延文庫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世初期に固定化する浄土教典籍の変遷過程を、中世の新出写本に依拠しつつ実証的に解明することである。新出の中世写本と近世版本とを峻別し、一方では典籍の原初形態を解明する遡及的研究(基底)を実施し、かつ両書の比較を通じて、他方では近世初期における浄土宗の問題意識(展開)の可視化を目指すものである。 聖冏(1342―1420)撰『決疑鈔直牒』(以下『直牒』)全十巻の諸本、特に身延山久遠寺身延文庫所蔵の第七巻(以下身延文庫本)を中心に考察したものである。『直牒』諸本は近世初期の版本を数種確認しているが、身延文庫本はそれらを百年余り遡る奥書を持つ唯一の写本であり、また本文も一部異なる。 身延文庫本を考察する前作業として、まず『直牒』版本を所蔵する機関(東北大学(仙台)、大正大学(東京)、東海学園大学(名古屋)、龍谷大学(京都)、佛教大学(京都)、大阪府立大学(大阪))において調査・撮影を実施した。 その成果をもとにし、寛永九年(1632)中野版の覆刻と思われる慶安三年版(1650)の跋文の問題注目し、諸本の黒口・文字を確認した。その結果、慶安三年版は、慶安五年版以降の開版である可能性が高いこと、また慶安三年版は寛永九年版の覆刻ではあるが、一部寛永九年の版木そのものも踏襲して使用していることが判明し、その複雑な開版状況を報告した。(「慶安三年版『決疑鈔直牒』に見る跋文の問題」『東山研究紀要』60) さらに近世版本系統と身延文庫本の比較をするにあたり、①共通箇所の文章、②版本系のみにある文章、③身延文庫本のみにある文章を考察した。その結果、版本系は多岐にわたる引用や諸師の説の典故を明示しているが、身延文庫本では必ずしもそうではない事を確認した。(「身延文庫蔵『決疑鈔糅議』断簡の一考察」『印度学仏教学会研究』64(1))
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は聖冏『直牒』諸本の調査・研究に焦点を当てるとした当初の計画通り、身延文庫本と近世版本系統の比較研究を進めており、概ね順調に進んでいる。 ただし両者の内容が当初の想定以上に相違していたこともあり、結果的に身延文庫本についてはやや部分的な考察に終始することになった。だが一方で従来の近世版本系統とは大きく相違する身延文庫本の資料的重要性を再確認するとともに、近世版本系統の位置づけをも再考察する契機ともなった。また本研究に関連する文献も確認でき、本研究のさらなる展開の可能性を期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に則って進める。まず身延文庫本の翻刻を完成させるとともに版本系との比較を進展させ、相違の全体像を提示する。次に良忠撰『浄土宗要集』とその前身である『浄土宗要肝心集』諸本の調査・比較分析を行い、その変遷過程を考察していく。
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