2015 Fiscal Year Research-status Report
ジャンセニスム論争と「恭しい沈黙」-内心の自由をめぐる思想史的研究-
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15K16632
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
御園 敬介 慶應義塾大学, 商学部, 准教授 (60586171)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジャンセニスム / ポール=ロワイヤル / アルノー |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世フランスにおける「ジャンセニスム」をめぐる宗教論争の重要な争点となった「恭しい沈黙」の観念に着目し、その生成と受容の経緯を分析しながら、西欧において、物事を自由に思考する権利すなわち「内心の自由」への意識がどのように生まれてきたのかを歴史的に考察しようとするものである。その第一歩として、計画の初年度にあたる平成27年度の研究は、「恭しい沈黙」に関する基礎的な知見の整理に費やされた。具体的には、次の二点を軸に研究が進められた。①「恭しい沈黙」の歴史的背景の理解、②同観念の意味内容の確定。第一点は、17世紀後半にカトリック教会が「ジャンセニスム」という異端を排斥するためにとった様々な政策を一貫した視野のもとに把握しようとする試みである。本研究は、こうした「反ジャンセニスム」の運動を、公的な歴史の構築すなわち歴史記述の営為として捉えなおす新たな視点を提示し、「恭しい沈黙」の観念の創出を見た複雑な政治情勢の解明に寄与した。第二点は、問題の観念がいつ、誰によって、どのように使用され、どのような射程をもつに至ったのかを概観する作業であるが、本研究は、この語に明確な説明と定義を与えている『トレヴーの辞典』補遺(1752)の記述を出発点に、この課題にとりくんだ。それにより、教会と王権への抗弁の策として17世紀半ばにポール=ロワイヤルの神学者たちによって唱えられ始めた「恭しい沈黙」が、18世紀に入っても重要な論題であり続けたこと、そしてそれが、様々な色付けを与えられながらも、抵抗と服従の中間に位置する両義的な態度を指し示していたことが理解された。以上の考察から得られた知見については、二度の口頭発表を行う機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「恭しい沈黙」はジャンセニスム論争のキーワードの一つでありながら、それに特化した先行研究は存在しない。そのため、この語が使用された様々な文脈を一次資料から正確に理解するために多くの時間が必要とされたが、17世紀から18世紀にかけて、観念がいったんは教会に受容され、やがて拒絶されていく過程を概観するなかで、その成立背景と内容にかんする基礎的な知見は確保することができた。それについて活字論文を公表するには至らなかったものの、口頭発表をもとにした草稿は完成に近い段階にある。以上を踏まえれば、本年度の研究は、おおむね順調に進展したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ジャンセニスム論争は長期にわたり錯綜した展開を見せており、そこで生み出された文書も多様である。したがって、「恭しい沈黙」なる語の初出については、継続した文献調査を行い、その背景となった可能性のある神学的・哲学的土壌を測定する必要がある。このような基礎作業に加え、平成28年度の研究では、「教会の講和」(1669)を通して「恭しい沈黙」が教会に受容されていくプロセスを検討する段階に進む。そのために、同時期に行われていたカトリックとプロテスタントとの論争との比較をすることも必要になるだろう。また、平成27年度の研究を通して得られた知見を活字論文として公表する作業にも取り組む予定である。
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Research Products
(2 results)