2016 Fiscal Year Research-status Report
ジャンセニスム論争と「恭しい沈黙」-内心の自由をめぐる思想史的研究-
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15K16632
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
御園 敬介 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (60586171)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジャンセニスム / ポール=ロワイヤル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、近世フランスにおける「ジャンセニスム」をめぐる宗教論争の重要な争点となった「恭しい沈黙」の観念に着目し、その生成と受容を分析しながら、西欧における「内心の自由」への意識がどのように生まれてきたのかを歴史的に考察しようとするものである。平成二八年度は四年計画の二年目であり、十七世紀中葉における「恭しい沈黙」なる表現と観念の生成の分析に力点を置いた平成二七年度の基礎研究を受けて、同世紀後半にこの観念がどのように受容されたのかを考察することが主たる課題となった。それは具体的には、一六六九年の「教会の講和」を通して、大局的には「恭しい沈黙」が正当化され、受諾されていく歴史的経緯と理論的根拠を追う作業である。歴史的経緯については、平成二七年度に行った口頭発表をもとにした研究論文の執筆、および関連する先行研究の渉猟を通して、王権と教皇庁の政治的な駆け引きのなかで繰り広げられた極めて錯綜した展開の大筋は理解されたものの、新たな事実の解明には至らなかった。理論的根拠の探究においては、教会の権威にどのような信を向けるべきかという同時期の議論との関連が重要な主題として浮かび上がった。論争を通して新たに生まれてきた「教会的信」なる観念との奇妙な類縁関係を始め、「恭しい沈黙」が信の理論をめぐる思索をその背後に有していることは、従来の研究でも指摘されてきたが、本研究は、「教会の講和」前後に始まるアルノーらの対プロテスタント論争における服従の理論もまた、「恭しい沈黙」の論理を考察するための重要な参照軸であることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「教会の講和」をめぐる歴史的経緯の探究は、先行研究の消化にとどまり、関連する一次資料の新たな分析には至らなかったが、他方で、平成二七年度の口頭発表をもとにした活字論文の執筆は終了しており、またアルノーやニコルの対プロテスタント論争における信の問題に関するフランス語論文の執筆も進んでいる(現在、草稿は完成に近い段階にある)。以上を踏まえれば、本年度までに実施した研究の進捗状況はおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
「教会の講和」によってポール=ロワイヤルが享受した一時的な平穏の時期に、アルノーやニコルは、プロテスタントの神学者との論争を続けることで、教会組織と信徒の関係に関する思索を深めていった。この点は「恭しい沈黙」の理論的背景として重要であり、引き続き論争文書の調査と分析を積み重ねる余地がある。また、「恭しい沈黙」は「教会の講和」を通して形式上は承認されたものの、依然として根強い批判の対象でもあった。未開拓の領域ではあるが、今後はこの方面の考察も進める必要があると思われる。
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Research Products
(1 results)