2017 Fiscal Year Research-status Report
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15K16640
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
葛西 周 東京藝術大学, 大学院国際芸術創造研究科, 講師 (00584161)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ジャンル論 / 日本音楽史 / 文化ツーリズム / アマチュア / 映画音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、本研究課題で重点を置いてきたトピックの一つであるアマチュアの音楽活動に関して、資料収集および考察をおこなった。特に文化ツーリズムの観点から調査を進め、近世から現在に至るまで多様な音楽・演奏者・聴衆が交わる接触領域として機能してきた温泉地に焦点を絞った。音楽学・観光学双方における関連研究の進捗状況を整理するとともに、戦前・戦中期の観光案内書・旅行記・地域誌・文化映画等を主たる研究対象とした。調査の結果、公的空間における音楽聴取が徐々に「高尚」なものへと移行した一方で、温泉地はわかりやすくデフォルメされショーケース化された音楽を楽しむ場所として機能してきたこと、またプロ/アマチュア、パフォーマー/観客といった境界にゆらぎを生じさせてきたことを明らかにした。さらに、観光という非日常であるが故に、従来の価値観や慣習とは極めて異なる各音楽ジャンルの実践を確認できた。 これらの研究成果に基づき、“Rethinking Performance Spaces from the Perspective of “Music Tourism Studies”: Focusing on Hot Spring Resorts in Japan”(第12回中日音楽比較国際学術会議)および「音楽実践の場としての温泉」(国際日本文化研究センター「音と聴覚の文化史」第5回共同研究会)の2件の発表をおこなった。 上記のほか、台湾案内や軍事啓蒙を意図した戦時下の文化映画を取り上げ、その映画の内容と使用されている音楽ジャンルの関連性について分析した成果として、三澤真美恵編『植民地期台湾の映画:発見されたプロパガンダ・フィルムの研究』(東京大学出版会、2017年8月)に「植民地期台湾の文化映画における聴覚的要素の検討」と題する論文を寄稿した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の開始当初は予定していなかった共同研究プロジェクトへの参加が当該年度に決まり、複数の共同研究会に定期的に出席することとなった。また、それぞれ上記とは異なる共同研究の成果に基づく、二冊の共著書の出版が決まった(一冊は2017年8月に刊行、もう一冊は2018年秋に刊行予定)。そのため、本研究課題に直結する内容でのラウンドテーブル等の主催や書籍出版の企画は予定通りには進展しなかった。 しかし共同研究により隣接領域の様々な研究者との学術交流の機会に恵まれ、研究アプローチや理論的枠組に関して多方面から示唆が得られたことは、本研究にとっても非常に有益であった。加えて、文化ツーリズムというこれまで扱ってきた事例の多くに適用可能な観点から議論を進められたことは、今後本研究の成果をまとめる上で大いに意義を持つと期待される。 さらに口頭発表・論文発表の件数も予定数を上回っているため、アウトプットの形態は変更せざるを得なかったが、総合的に見るとおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は特に文化ツーリズムの観点から音楽ジャンル観の形成と変遷に着目し、その成果を論文としてまとめる。加えて、本研究課題の最終年度にあたる平成30年度には、研究期間全体の事例分析・考察成果の公開のため、改めて著書の出版準備を進めたい。また、共同研究を通じて問題意識を共有してきた隣接領域の研究者とともに、関連テーマのラウンドテーブルを実施したい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、共同研究に係る国内外出張が多かったので、殊に本研究課題での旅費予算の執行が予定をかなり下回ったことによる。また、共同研究との兼ね合いで、本研究課題主催イベントの実施が困難であったことも理由である。したがって、次年度は追跡調査や企画実施にあたる旅費・物品費・謝金として研究費を使用することを予定している。
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