2015 Fiscal Year Research-status Report
イスラーム写本絵画にみる模倣の形成と展開についての実証的研究
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15K16648
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
林 則仁 龍谷大学, 国際学部, 講師 (20738215)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 写本絵画 / イスラーム / 博物誌 / 模倣 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年3月にニューヨークの公共図書館およびモルガン図書館においてアル=カズウィーニー著『被造物の驚異』の写本における挿絵の調査をした。さらに、メトロポリタン美術館にて所蔵されているイスラーム写本絵画の調査をし、研究者と意見交換を行った。同美術館においてはイスラーム美術における絵画表現を分析するための調査も実施し、イスラーム美術史における人物・動物の具象表現の諸相を明らかにする資料の収集を行った。2016年4月にはイスタンブルのトプカプ宮殿附属図書館にて、同じくアル=カズウィーニー著『被造物の驚異』の写本における挿絵の調査をした。このほか、ミュンヘンのバイエルン州立図書館や大英図書館、フリーア美術館などから所蔵する『被造物の驚異』の挿絵の電子画像を取り寄せて、データベースの構築を進めている。現段階においては、現存が確認できる16世紀以前の『被造物の驚異』写本はほぼ調査を終えており、研究目的にある模倣の基礎となる初期の複写本の挿絵の調査、その特徴の分析は概ね完了し、さらに年代順に挿絵の比較分析をして模倣の詳細な解明を明らかにする過程に入っている。トプカプ宮殿附属図書館にて調査を行った写本の大半はこれまで全く研究されてこなかった写本であるが、今回の調査でこれら写本には多くの学術的重要性が指摘できることが判明した。2015年11月には本研究の一部をまとめた「中東イスラーム世界の写本絵画と驚異」を『<驚異>の文化史 中東とヨーロッパを中心に』(山中由里子編、名古屋大学出版会)にて公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、13世紀から近代まで多くの複写本が制作されてきたアル=カズウィーニー著『被造物の驚異』における写本絵画を通して、イスラーム地域の同一著作における写本間での挿絵の絵画表現を調査し、イスラーム美術の慣習である模倣の伝統の重要性を実証することを第一の目的としている。本年度は、『被造物の驚異』の写本絵画の調査および資料収集を行い、申請者自身がこれまでに蓄積させてきた資料の不足部分を補うことができた。これによって、16世紀以前の写本の挿絵の調査、その特徴の分析は概ね完了した。また、16世紀以後の写本についても挿絵の調査は順調に進んでおり、分析を開始できる状況に至っている。以上により、本年度の研究計画において予定されていた部分は概ね実施することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
一つの著作において数世紀にわたって複写本が存在することにより、その複写本に施された挿絵はテキストが複写されるがごとく模倣される一方で、どのようにこの模倣の伝統が形成され、変貌していくかを挿絵の比較分析によって実証していく。これまでに収集したデータをもとに、年代順に挿絵の比較分析を行い、模倣が確認できる部分の詳細な解析を試みる。また、これまでの調査によって判明した学術的に重要度の高い写本の挿絵に関する調査・考察を進めて研究報告にまとめ、国際学会および国際学術誌で発表する予定である。
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Causes of Carryover |
1年目に実施を計画していたトルコでの調査において、トルコ共和国文化観光庁から研究許可を得る手続きに予想以上の時間がかかり、その結果、調査のための出張を翌年度に行うことにしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2016年4月下旬にトルコのトプカプ宮殿附属図書館にて調査を行うほか、同図書館にて調査した写本の一部をデジタル複写にて購入する。そのほか、画像の出版ライセンス料および関連書籍の購入に使用する予定である。
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