2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16654
|
Research Institution | Tokyo National Museum |
Principal Investigator |
瀬谷 愛 独立行政法人国立文化財機構東京国立博物館, 学芸研究部, 主任研究員 (50555133)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 縁起絵 / 高僧伝絵 / 一遍聖絵 / 中世律宗 / 聖徳太子 / 忍性 / 東征伝絵巻 / 浄厳 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目となる28年度は、27年度の成果に基づき、国宝「一遍聖絵」に関連する「東山太子堂古図」「聖徳太子二歳像」(京都・太子堂白毫寺、ハーバード大学美術館)などの作品調査を行なった。また、一遍の故郷伊予に所在する繁多寺、善応寺、伊予国分寺や、一遍遊行の最南端である鹿児島神宮(大隅正八幡宮)、大隅国分寺跡などの現地踏査を行ない、新知見を得ることができた。これらの成果は、「一遍聖絵の成立と中世律宗」と題して、美術史学会東支部例会(於成城大学、7月23日)にて口頭発表し、「一遍聖絵」の事跡や表現から一遍の活動と作品の成立背景に中世律宗が深く関与したと結論づけ、宗派を超えた結節点として京都東山太子堂に注目した。関連して、中世律宗と一遍、聖戒、四天王寺と聖徳太子信仰について、「ハーバード大学美術館所蔵聖徳太子二歳像および像内納入品」に関するワークショップ(名古屋大学・ハーバード大学共同研究ワークショップ、於ハーバード大学、29年3月25日)にて口頭発表を行なった。 また、中世律宗による高僧伝絵制作に関する研究成果として、極楽寺忍性が唐招提寺に施入した「東征伝絵巻」の背景に、唐招提寺中興2世証玄の7回忌追善があることを実証する論考(「忍性と証玄―東征伝絵巻施入をめぐって」)を発表した(特別展「忍性菩薩―関東興律七五〇年―」展覧会図録、神奈川県立金沢文庫、28年10月28日)。 28年度は新たに近世に制作された社寺縁起絵、高僧伝絵に対象を広げ、館蔵品、寄託品を主な対象に作品調査を行なった。とくに、17世紀の寺社整備、創建に関する研究の端緒として、五代将軍綱吉、柳沢吉保の帰依を受けて浄厳が湯島に開いた霊雲寺について研究し、成果発表としての特集展示「幕府祈願所 霊雲寺の名宝」は、29年4月25日~6月4日に開催(東京国立博物館本館2階特別2室)。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目に得られた「一遍聖絵」に関する成果を作品調査と実地踏査によって深化させ、一遍の活動と関連作品の成立背景に律宗が深く関与した可能性を美術史学会で発表。隣接分野にも影響する新知見を学界に提示することができた。成果はハーバード大学における研究会で海外の研究者にも報告した。この知見は他の同時代作品研究にも応用でき、引き続きさまざまな新解釈への発展が期待できると見込んでいる。 鎌倉時代における縁起絵、高僧伝絵制作の結節点のひとつに中世律宗を据えることで、宗派を超えた作品の共通性に対するひとつの視座が提示できる可能性がある。当初の研究計画では「浄土教系」「密教系」などの分類を指標としたが、枠組みの再考を試みる必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
28年度は新たに近世の実態調査も対象として調査研究を行なった。その端緒として東京湯島に所在する真言宗霊雲寺と開基浄厳に関する成果報告を、東京国立博物館における特集展示「幕府祈願所 霊雲寺の名宝」(29年4月25日~6月4日、本館2階特別2室)で行なう。最終年度となる29年度は江戸時代前期の研究についてさらに深化させ、鎌倉時代の社寺縁起絵、高僧伝絵との有機的なつながりを浮かび上がらせたい。
|
Causes of Carryover |
調査研究補助者と申請者との日程が合わず、作業を行なえない日があったため、見込んでいた日数、人件費の使用がかなわなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度使用分を加えて計画を立て直し、調査研究補助者に依頼して遂行に努める。
|
Research Products
(6 results)