2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16678
|
Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
西田 一豊 千葉大学, 人文社会科学研究科, 特任研究員 (00571621)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 日本近代文学 / 福永武彦 / 雑誌 / メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は福永武彦蔵書および散逸資料の調査として、北海道立文学館へ赴き調査を行った。北海道文学館では、当館に寄託されてある福永武彦関連資料を閲覧・調査し、これまで明らかにされていなかった資料の存在を確認した。福永武彦の小説に関する自筆メモや構想ノート、また日記や手帳類の膨大な資料が寄託されていたが、今後はそれらの資料をさらに精査する必要がある。 また福永武彦とメディアとの関連について、主に国立国会図書館に赴き「加田伶太郞」名義で書かれた推理小説とその発表されたメディア環境について調査を行った。この結果、「加田伶太郞」名義で、『福永武彦全集』に未収録の「トンネル」(「読売新聞」昭和34年9月13日)、「某月某日」(「小説新潮」昭和36年11月号)という文章の存在が明らかとなった。また「近影」(「別冊小説新潮」昭和35年7月号)とされる「加田伶太郞」の雑誌掲載写真も確認された。さらに「加田伶太郞」名義が福永武彦であると明らかになった時期について、これまでは作者の言及しかなかったものが、「毎日新聞」昭和31年8月4日の記事で加田伶太郞が覆面作家であるとの記述が存在していることが判明した。 以上の調査は、これまで明らかにされていなかった資料の調査であるが、それと同時に福永武彦の戦後の雑誌メディアにおける役割を解明するために「小説新潮」「エラリー・クイーン・ミステリ・マガジン」という二誌の調査を行った。「小説新潮」が探偵小説ブームを背景に福永武彦を松本清張とセットで売り出したこと、また「エラリー・クイーン・ミステリ・マガジン」では「E.Q.M.M.短篇探偵小説 日本コンテスト」の銓衡委員を務め探偵小説ブームの牽引者の一人であったことも明らかとなった。 上記の調査結果を2015年11月22日に行われた「福永武彦研究会」で発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画として福永武彦蔵書・散逸資料調査・データベース化があったが、蔵書散逸資料の調査は北海道立文学館での寄託資料調査によりかなり進んでいる。ただしデータベース化にあたっては今後北海道立文学館との協力が不可欠になる。また福永武彦テクストの精査については、これまで研究言説の少ない加田伶太郞名義で書かれた推理小説を中心に行い、福永武彦研究会で発表を行うことが出来た。研究計画にあったホーページの開設・データの公開については、データの入力作業が遅延しているためまだ実現していないが、書誌情報を中心としたホームページの開設を早急に行う用意はできている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降も本年度に引き続き福永武彦蔵書・散逸資料・データベース化を重要な研究課題として進めていく。今年度は北海道立文学館に赴き寄託資料の精査と行うとともに、未発表資料のデータベース化および文字起こしを行う。また福永武彦研究会に所属している在野の研究者ないしは資料収集家と連絡を取り、散逸している福永武彦関連資料の古書市場における調査収集を行う。さらに資料の精読・研究会を行い、研究会・ワークショップを定期開催し、収集した資料の分析結果を広く公開し議論する。これら今年度に行う予定の研究については、その成果を年度末に「年次報告書」としてまとめ、公開し、ウェブ上に開設した本研究専用HPで収集したデータ等を逐次公開する。
|
Causes of Carryover |
本年度に調査予定であった北海道立文学館への旅費について、調査回数が予定していたよりも下回ったため、使用額が減じてしまった。またその他の費用についは散逸資料を古書市場において購入うる予定として挙げていたが、その他費用金額での購入が難しかったこと、および研究目的として購入すべき資料が古書市場にあまり出回らなかったため使用額が減じることになった。人件費・謝金については福永武彦研究会において謝金を用いての講演会・シンポジウムを予定していたが、これが実現していないために生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度では、まず旅費について北海道立文学館への調査回数を本年度よりも増やすことで使用する。またその際に北海道立文学館だけでなく福永武彦と繋がりの深い帯広へも調査の足を伸ばす。さらに関東圏内にあっても福永武彦の自筆資料は確認されており、日本近代文学館、神奈川近代文学館、山梨近代文学館等の文学館および資料館に赴き調査を行う。雑誌メディアとの関連を調査するために国立国会図書館での調査頻度を増やす。その他の費用については、ホームページの開設・維持管理に使用し、年度末の報告書作成に使用する。次年度は福永武彦研究会において若手の研究者との合同研究会を催し、その際に人件費・謝金を用いる計画である。
|
Research Products
(2 results)