2017 Fiscal Year Research-status Report
戦後における〈文学賞〉の競合と社会的意義の拡大に関する研究―1950年代まで
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15K16681
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
和泉 司 豊橋技術科学大学, 工学部, 准教授 (50611943)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 〈文学賞〉 / 同人作家 / 直木賞 / 長崎謙二郎 / 邱永漢 / 夏目漱石賞 / 水上瀧太郎賞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、日本近代文学において〈文学賞〉がどのような役割を果たしてきたのか、どんな機能を持ってきたかを問い直し、確認することである。当該年度では、主として戦後時期の〈文学賞〉に関する雑誌・資料を収集した。特に、戦前・戦中の時期に〈文学賞〉を介してデビューし、戦後になって商業誌からは遠ざかった作家たちを中心とした同人誌についての調査・研究を主とした。主な対象は、1955年創刊の『文芸復興』、1962年創刊の『碑(いしぶみ)」である。一方、1950年代に直木賞からデビューし、直木賞作家という肩書きを用いながら、評論・時事問題・経営経済・自己啓発の方面で活躍することになった邱永漢のテクスト群を調査・分析し、旧植民地問題や日本の文学者における「国籍」の問題にも注目しているところである。当該年度は学会報告として邱永漢が1980年前後において日本・台湾の混血であるという出自を明らかにし、日本国籍を取得した時期のテクストを中心に、邱永漢が自らの過去を描き・語り、日本・台湾という枠組みを超えて活動し始める契機について考えた。さらに、邱永漢の日本における活動・行動をまとめる論文も発表した。 今年度は研究計画の最終年度として、戦後から1950年代の〈文学賞〉およびその枠組みに関わってくる同人作家、そして受賞作家たちの行動を資料から確認、整理しつつ、この時代における〈文学賞〉の意義を解析し、報告・論文としてまとめていく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実績概要でも触れた通り、当該年度まで、1950年代までの〈文学賞〉およびその周辺にいた同人作家たち、そして、直木賞受賞作家としての邱永漢に注目して調査・研究を進めてきた。しかし、2017年度は、前半に勤務校における海外研修があり、後半には家族の介護をすることになった。そのために、研究計画に必要な時間がとれず、研究期間の延長をすることになった。同人誌及び邱永漢に関する調査・研究は進んでいるが、2017年度にまとめる予定であった1940年代から1950年代の〈文学賞〉についての報告は、延長年度に行う。また、2017年度は海外調査(台湾)は実施することができたが、国内における遠方調査は実施できなかった。2018年度は介護と育児・家事が重なる状況となっているが、デジタル化資料等を活用することで、計画をまとめる報告・論文を作成していくつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の延長最終年度であるので、1950年代までの各〈文学賞〉の状況を分析し、そのまとめとなる報告・論文を作成・発表する。さらに、その〈文学賞〉に関わってくる同人誌・同人作家たちの調査・研究もすすめ、この時代の、〈文学賞〉を中心とした文学と作家の環境がどのように形成され、それがその後とさらに現在に至ってどのような影響を持っているかを分析する予定である。〈文学賞〉の社会的影響力増大と、文学の社会的存在意義・価値の変化が起こる決定的な時期として、この時代の文学の状況を把握し、まとめることを目標とする。
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Causes of Carryover |
2017年度に、勤務校の実施する海外教職員研修に参加したことと、後半に家族の介護・育児が始まったことによって、当初予定していた調査予定が大幅な変更を余儀なくされ、特に資料調査出張が出来なくなった。また、購入を希望し探していた古書・古雑誌がなかなか見つからなかった。今後は、調査出張をできるだけ実施することと、デジタル化資料の利用によって時間を調整しつつ、必要な資料の購入を行っていくことに助成金を使用していく予定である。
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