2018 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16685
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
坂口 周 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (20647846)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 世界 / 身体イメージ / 視覚メディア / ポストヒューマン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本近現代文学の発展を、時代的に平行して存在した視覚メディアによる新しい「視覚性」によって説明することを主な方針としていたが、中途より、若干の修正を行っている。「視覚性」の概念を、ジャンルやメディアの個々の特異性を横断する「イメージ」のレベルで捉え直すことで、(1)先端テクノロジーとの関わりも視野に入れた、文芸における身体性の問題(身体イメージ)を探求すること、および(2)大正時代から、特に戦後以降の日本語テクストが「世界文学」の一員となることを目指して描いてきた「世界」イメージの変遷を捉えることを、二つの大きなサブテーマとして設定した。(1)に関しては、「歩行」の表象の研究を手始めに、平成29年度末に梶井基次郎の論考を発表した。次段階として、戦後文学において旧来の「純文学」とは異なるポストヒューマンの身体イメージが登場してきた経緯の調査に着手したが、それは(2)において戦後文学者たちが従来の「世界」イメージを超える新しい「世界」のイメージを模索したことと実質的に重なる問題であるため、研究内容としては合流する結果となった。(2)に関わる発表論考は、「朦朧と幻想の山本直樹―『堀田』を中心に―」(『ユリイカ』2018年9月臨時増刊号)と「消滅の寓意と〈想像力〉の問題―大江健三郎から村上春樹へ―」(『文学+』2018年10月)である。前者は、他の視覚メディアにおいても「世界」イメージの更新が顕著に進行してきた事実を示すもので、一巡して、本研究の当初の主題に議論を戻した点で有意義である。主に1980年代を論じた後者は、残り1年で本研究を集成するための枠組みの議論を提示した。なお、直接の研究実績ではないが、『週刊読書人』の文芸時評欄を2018年1月より12月まで毎月担当した。本研究が「今」の文学のトレンドの分析から資するものは少なくなかったため、併せて記しておきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度の「今後の研究の推進方策」で記したように、平成30年度中に本研究の成果を単著にまとめる目標を延期した代わりに、1980年代以降から21世紀現在までの研究を充実させる目標を立てたが、概ね計画どおりに実行できた。「研究実績の概要」に記したとおり、(1)文芸における身体イメージの問題(2)近現代文学史における「世界」イメージの変遷の考察、の各々のテーマに関する論考を発表できたことに加え、その成果として、両者のテーマを「ポストヒューマン」などの概念を軸に再統合する可能性を確認できた。それにより、本研究を集大成する論点の絞り込みや構成の目処が立ったことは、必ずしも新知識の発見を業績の基準としていない文学研究の性格に照らして、十分な成果といえる。平成29年度より計画している単行本の出版は、最終的に令和元年度の目標として持ち越してきたが、その実現が十分に見込める状況まで進捗した。ただし、本研究テーマに基づく学術的ネットワークを構築するという当初の目標の一つに関しては、進捗状況が良いとは言いがたい。シンポジウムや学会発表の形での公的な口頭発表を行えていないことが要因の一つと思われるため、延長年度において、その部分へのエフォートの割り当てを引き上げる必要を認識した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は本研究課題の補助事業期間の最終年度だったが、研究成果の発表に関わる時間が十分に割けなかったため、延長を申し出た。当初の計画では、シンポジウム等の開催とその成果としての論集の作成を企画していたが、勤務校の立地等を勘案して助成金の残額で十分な規模の集会を執り行うことは実質的に不可能であり、形式的な研究会の開催に十分な効果が期待できないとの判断から、研究成果の社会還元の一つのかたちとして、最終的な目標を単著の出版に設定し直している。具体的なスケジュールとしては、1年間の延長期間の内、前半期は可能な限りのリソースを執筆のための時間に充当し、後半期には部分的なトピックを切り出して、学会発表・講演・シンポジウム登壇のいずれかのかたちで口頭の発表報告を2~3回行う予定である。また、国際的な研究者ネットワークの形成という目的に供することを期して、本研究全体を構成する最重要の論点をまとめた英語論文を執筆し、年度内に何らかの学術的媒体において公表する計画である。
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Causes of Carryover |
「現在までの進捗状況」及び「今後の研究の推進方策」にも記したとおり、補助事業期間の延長によって、研究成果を発表する計画を次年度に繰り越したため、確保していた「人件費・謝金」を執行しなかったのが次年度使用額が生じた主な理由である。したがって次年度は、継続して購入の必要な書籍等の資料の他は、延長年度に繰り越した英語論文の執筆及び複数回の学会発表の実施を計画しており、英語校正の謝金及び出張費によって残り予算の大半を使用する予定である。
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