2015 Fiscal Year Research-status Report
中世文学における音楽研究試論―書物の枠組から見た雅楽史の究明―
Project/Area Number |
15K16686
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
猪瀬 千尋 東京大学, 情報学環・学際情報学府, 特別研究員 (10723653)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 雅楽 / 書誌学 / 中世文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は①音楽関係の資料目録の作成、②関東圏内を中心とした文庫の調査、③綾小路家における楽書群についての体系的把握、の三点を中心に行った。 ①について、本科研は最終年度に「中世音楽資料集」(仮称)を作成することを一つの目標とする。資料集は目録編、翻刻編を予定しているが、ここでは目録編作成のためのデータ入力作業を行った。史料編纂所に所蔵される各寺院および文庫の目録について、音楽関係資料を抽出した。また明治~大正期の売立目録、公家・華族の所蔵目録についても同様に抽出した。また同じく、明治~大正期の資料調査記録(大原重明の調査記録など)からも抽出を行った。 ②について、①で得た情報に基づき、書陵部、尊経閣文庫、内閣文庫等で調査を行った。本年度は特に下記③を意識し、綾小路家に関わる資料、及び宮廷御神楽関係の資料の調査を中心に行った。調査結果については、基本的な書誌情報はもちろん、地名、人名、音楽名などのタグ欄(関連情報)をつけることで、具体的な内容を理解できるような形でデータ化した。このうち一部の資料については全文翻刻を行った。この成果については①で挙げた「中世音楽資料集」において報告予定である。 ③について、2015年12月6日に行われた藝能史研究会東京例会において、本科研と連関するテーマでの企画開催に携わるとともに、発表を行った。発表のテーマは南北朝~室町期の音楽史に多大な影響を与えた綾小路家について、その書物群を通史的、体系的に把握しようとするものであった。この成果については、現在、論文を執筆中であり、2016年度中に報告をする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は【研究実績の概要】で記した「中世音楽資料集」刊行事業のうち、特に目録編を中心に作成する予定であった。しかし科研費申請後、【研究実績の概要】③で挙げた学会報告が入ったため、当初は平成29年度の目標としていた南北朝~室町期の音楽史研究を前倒しとして行った。 そのため目録編の作成は今後の課題となったが、特に綾小路家の書物群について、①その書物生成の背景には崇光院流による郢曲資料の編纂があったこと、②綾小路有俊(1419~95)は、家の文書を早くから写すなど家の復興につとめ、洞院満季男・実熙の扶持のもと早くから宮廷社会で活躍したこと、その書物群(特に応仁の以前について)は洞院家の影響を強く受けていること、③綾小路家といっても、時代ごとの書物の枠組はかなり異なることがわかった。 今後は如上の成果を、様々な音楽の家における書物群の実態と比較することで、科研の標題にも挙げた「書物の枠組から見た雅楽史」の実態を明らかとしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、科研費申請書で記した計画とは異なる点として次の三点、①研究計画の一部変更、②新たに見いだされた文献の目録データ化と、③各地の寺院、文庫の調査、がある。 ①について【現在までの進捗状況】に記した通り、当初予定していた計画について一部変更があったため、これを受けて研究計画を組み直していく必要がある。ただし実態としては年次計画の順序が入れ替わったのみであり、進捗状況については順調であるので、特に計画について見直す必要は現在の時点でないものと考える。 ②について、特に明治~大正期の古書売立目録および野宮家旧蔵本目録に音楽関係資料が見いだされた。これについて目録データ化し【研究実績の概要】で記した「中世音楽資料集」にまとめたい。 ③について、特に②で記した野宮家の旧蔵本について現所蔵者である東京大学で調査を行う必要がある。
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