2016 Fiscal Year Research-status Report
中世文学における音楽研究試論―書物の枠組から見た雅楽史の究明―
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15K16686
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
猪瀬 千尋 名古屋大学, 文学研究科, 共同研究員 (10723653)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中世文学 / 書誌学 / 雅楽 / 歌謡 / 寺院聖教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は①前年度の調査、報告についての成稿化と、②聖教資料の調査、報告を主軸に行った。特に②については(1)弁才天およびダキニ関係資料と(2)唱導資料について注目した。 まず①について、前年度行った、郢曲の家である綾小路家に関わる書物の体系について、『藝能史研究』上で論文を発表した。音楽の家における書物の体系が変容することなく伝承されるものではなく、その時代の社会情勢や人と人との繋がりによって多様に変化していくことを指摘するものである。 ②(1)について、弁才天と、これに習合するダキニ天に関わる資料は、音楽関係のものが少なくないことから、諸文庫、寺社の目録を収集し、そこから当該データの抽出を行った。特に『古今著聞集』(十三世紀中葉成立)管絃部二六五話に見える音楽説話に注目し、上記のデータをもとに分析するとともに、その成果について、説話文学会大会において報告を行った。また調査の過程で、これまで未知の資料とされてきた『須臾福徳円満成就刀自女経』について、その存在や伝来を指摘し、またこれを典拠とする絵画資料を発見できたことも、一つの成果であると考える。 ②(2)について、『転法輪鈔』『言泉集』『尊勝院弁暁説草』「湛睿草」といった唱導資料から、音楽関係の記事を抽出し、引用、影響関係なども含めてそれぞれを比較検討することにより、唱導における書物の連関についての考察を行った。特に安田善次郎氏旧蔵『諸人雑修善』などに収録される「入道小納言信西令修弥勒講表白」について、信西一門の唱導資料やこれと連関する絵画イメージと接続することが判明したため、この成果について国際学会であるAASで口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画において、特段の支障をきたすことなく、進展することができた。また国際学会においては、質疑において活発な議論が展開され、一つの研究テーマとしての価値を見いだすことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、当初の計画通り寺院聖教を中心に扱った。ただし計画では声明関係を主体とする予定であったものの、諸本整理などにおいて困難な部分があると考えられたため、弁才天関係と唱導関係の資料に対象を絞って考察を行った。今後は、こうした成果を踏まえ、本科研で課題としている書物体系の構築につとめたい。
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Causes of Carryover |
当該年度の国際発表が年度末に位置していたため、経費が直前にならないと判明しない点もり、次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
去年度に使用予定であった、必要な文献の複写費などとして充てる。
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