2016 Fiscal Year Research-status Report
鎌倉時代後期の宮廷における王朝文化継承と新文化創出の再検討―伏見院の宮廷を中心に
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15K16691
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Research Institution | Naragakuen University |
Principal Investigator |
阿尾 あすか 奈良学園大学, 人間教育学部, 専任講師 (30523360)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 伏見院 / 宮廷文化 / 和歌 / 古筆 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は鎌倉後期宮廷における文芸活動の様相の解明に焦点をあてて研究を行った。夏期に発表した二編、「日本宮廷文学の公共性―「勅撰和歌集」という公共事業」および「「家」という日本の中世的公共性について―「歌の家」を中心に―」(両編とも韓国語による翻訳)は鎌倉後期宮廷の和歌を中心とする文芸活動を概観し、和歌が当時の政治や社会に及ぼした影響について検討したものである。この成果は韓国学中央研究院のプロジェクト「高麗時代の公共性」での共同研究の成果でもあるが、当該研究で得られた知見についても書き加えた。また同時期に発表した「日記と和歌―『中務内侍日記』を例に」は、『中務内侍日記』の内容の検討を通して、京極派歌壇の母胎となった東宮時代の伏見院宮廷の文芸活動についてその活動の性質について明らかにしたものである。同書は君臣融和の書ということが指摘されてきたが、その編集意識については議論の分かれるところであった。当該研究では、和歌が君臣の宮廷内での結束を固める役割を果たしていること、同書が君臣融和する自統の安泰をアピールする編集意識で書かれていることを明らかにした。ごく初期の伏見院の宮廷がすでに文化サロンとしての素地を作っていたことも明らかとなった。 また、伏見院の和歌題における漢文学摂取の検討を通して、鎌倉後期宮廷文化において漢文化が深部にまで浸透していたこと、またその摂取した漢文化は平安から続く王朝文化の系譜上にあるものであることを指摘した。その研究の成果は、次年度となったが平成29年度4月刊行の論文「伏見院の和歌題と漢文学」において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
伏見院の古筆資料には資料価値が確定していないものも多く含まれ、資料価値の検討から行う必要が生じたため、平成27年度の段階で、当初の計画よりも遅れが出てしまったことが要因である。そのため、平成27年度に古筆資料のレベルの分類、浄書レベルの古筆資料の検討ができず、また、もう一つの計画であった王朝文化摂取の検討も行うことができなかった。平成28年度は、前年度の研究計画を継続する形で研究を行ったため、当初のもう一つの研究計画であった、宮廷文芸における王朝文化摂取の様相についての研究を中心に行い、漢文化の摂取の様相などを通して、鎌倉時代宮廷の文芸が王朝文化の延長線上にあることを明らかにすることができた。引き続き伏見院の宮廷および鎌倉後期宮廷全般の王朝文化の摂取の様相を検討していく予定であるが、今後は絵画資料も含めた研究を行っていく。 また、同時に並行して平成27年度より引き続いて古筆資料のレベルの分類、浄書レベルの資料の検討も行った。平成27年度に調査した「堀川切」は伏見院が『古今和歌集』を書写したとされる歌巻の断簡であるが、平成28年度も継続して、「堀川切」の調査を行うとともに、その他の伏見院の浄書した資料の検討を行った。今後は資料の書風だけでなく、料紙装飾なども視野に入れて検討を行っていく予定である。 当初の計画よりはやや遅れてはいるが、確実に当初の計画を遂行する形で研究を進めることはできた。
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Strategy for Future Research Activity |
古筆資料の整理は遅れてはいるが、平成28年度までの研究において、同時進行の形で、資料の性格が明らかとなった資料については和歌表現の検討を行い、京極派歌壇での歌風形成の一端を明らかにし始めている。今年度も古筆資料の書写レベルの整理、資料価値の位置づけを行いながら、価値の明らかとなった資料の内容や料紙の装飾などの検討を行い、王朝文化継承の様相を解明する予定である。 また、今年度は伏見院の浄書レベルの古筆資料だけでなく、廷臣のもの、草稿レベルのものも含めた古筆資料についても扱う。特に伏見院に重点を絞り、伏見院の草稿・浄書レベルの資料を成立時期によって整理し、それら資料の重出歌を中心に検討する。伏見院の場合、重出歌の中には、一部の表現を改めて推敲のあとが見られるものが多い。今年度は成立時期から表現の推敲を分析し、伏見院がどのようにして新たな表現を獲得していったかを明らかにする。そのことによって、京極派歌風の形成の過程が明らかとなるはずである。 本年度は当該研究の最終年度にあたり、伏見院以外の歌人の草稿レベルの資料の検討にまで研究を及ばせることは困難が予想されるが、その場合は、伏見院の資料との比較で周辺歌人の資料の検討を行うこととし、周辺歌人の資料的価値等の詳細についての研究成果は次年度中に発表することとする。
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Causes of Carryover |
代表者は当該研究以外で共同研究の分担者として三つの研究に参加しているため、研究の時間を当初の予定以上に配分することが困難であった。更に、当該研究においては調査した古筆資料の資料的価値の位置づけに予想外に時間がかかり、古筆資料の調査、データ収集に時間を取ることができなかった。研究が、当初の計画から遅れたことが主な原因である。また、平成28年度は平成27年度の研究計画のうち、和歌や物語などの資料の内容から、鎌倉後期宮廷の王朝文化摂取の様相を明らかにすることに重点を置いて研究を進めてきており、この課題についてはすでに本研究資金を獲得する以前に獲得した課題研究等の資金で収集した資料で研究を遂行できる部分が多くあり、新たに資料の調査を行う必要が比較的少なかったためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は古筆資料の調査、収集を予定しており、また、それら古筆資料の書風や料紙装飾の比較検討を行うため、旅費および物品費ともに当初の計画よりも支出が増える予定である。また、和歌の表現の検討についても、同時代の絵画の描写との比較も行うため、絵画に関する資料を収集する必要が生じ、物品費の支出が当初の計画よりも増える予定である。平成29年度には整理した古筆資料のデータの公開も予定しているため、その他の経費の支出が当初の計画よりも増える予定である。これら当初の計画から増加する支出については、次年度使用額においてまかなうことを計画している。
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Research Products
(4 results)