2016 Fiscal Year Research-status Report
20世紀のアメリカ文学における日本の民話の受容と意義
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15K16697
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
CARDI LUCIANA 大阪大学, 言語文化研究科(言語社会専攻、日本語・日本文化専攻), 特任講師 (00725632)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 比較文学 / 日本民話 / 狐憑き / 20世紀アメリカ文学 / ジェンダー構築 / 黄禍論 / アジア系アメリカ人のアイデンティティ問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は狐の嫁入りや狐が女に化ける民話のモチーフを取り上げた20世紀のアメリカ文学や映画に関する資料を収集し、研究課題に関する理解をさらに深めることができた。アメリカの文化的な背景における日本の民話の受容を徹底的に検討をするため、5月に東京都の国立国会図書館を訪れ、19世紀後半から20世紀初頭までに英訳されてアメリカの読者に紹介された日本の民話に関する資料を収集した。そして、民話とおとぎ話研究に携わる書籍を購入し、幅広く研究を行った。 その結果、現在まで収集した一次資料や学術的な評論を分析し、本研究が完成した後出版する予定である学術専門書の第二章「The Flip Side of Madame Butterfly: From Oriental Vampires to American Ladies」を執筆することができた。この章では、1900年代から1920年代までのアメリカ文学に焦点を当てて、ジョン・ルーサー・ロングやオノト・ワタンナの小説および、ロイド・イングラハムによるジョン・ルーサー・ロング作品の映画化における日本の民話の描写と意義について考察した。特に、日本の民話からインスピレーションを受けた作品におけるジャポニズム、人類混血に対する偏見、黄禍論、オリエンタリズムの影響を検証した。その作品の中に登場する<女に化けるアジアの狐>と20世紀初頭のアメリカの<新しい女>( New Woman)の描写と19世紀後半から英米文学の作品の中で頻繁に登場する吸血鬼の姿の関連性を実証することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
出産および育児休業に備え、平成28年7月1日から研究を中断した。そのため、アメリカ議会図書館での資料の調査を行うことは叶わなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に引き続き、平成29年度はエレン・ステイバーの『Shadow of the Fox』(1994年)と『The Fox Wife』(1995年)、キジ・ジョンソンの『The Fox Woman』(2000年)と『Fudoki』(2003年) などの20世紀後半~21世紀初頭のアメリカ文学作品に焦点を当てて、狐に関わる日本の民話の受容を検討したい。特に、民話研究の新たな動向に着目する学術評論を参考にしながら、キジ・ジョンソンやエレン・ステイバーが作成した日本の民話の改作におけるフェミニズム運動、ポストコロニアル理論、ヒューマン・アニマル・スタディ(人間と動物の研究)の影響を分析する予定である。 そして、二週間ほど米国へ渡り、アメリカ議会図書館、ジョージ・イーストマン・ハウス国際写真映画博物館などで、日本の民話を取り上げたアメリカ人監督の映画やアメリカ人の学者と来日宣教師の叙述に関する資料を収集したい。アメリカ文学におけるアジアの民話研究に携わる研究者と交流するために、ハワイ大学を訪れる予定である。29年度の研究の背景にはジェンダー研究、ポストコロニアル理論、比較文学などがあるので、多角的な視点から民話・童話の現代的な翻案を吟味する研究者のネットワークを構築するのが最重要事項である。ハワイ大学で、クリスティーナ・バッキレーガを中心とする研究グループが、現代アメリカ文学におけるフェミニスト童話やマイノリティーの伝統的な民話の翻案に関する調査を行い、その結果を様々な雑誌や学術専門書に発表してきた。したがって、ハワイ大学へ行って、現地で最新の研究動向の情報を持ち、アジア系アメリカ人の文化混合に関する比較研究に重心を置いているハワイ大学の図書館で資料を収集する予定である。
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Causes of Carryover |
出産および育児に備え平成28年7月1日から研究を中断した。4~6月の3か月しか研究できず、身重のため出張等もあまり行くことができなかった。そのために次年度使用額が多く生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年9月から再び研究を始め、書籍の購入および、作成中の英語の学術専門書のプルーフリーディング、国内外資料調査、研究成果の口頭発表を目的とした出張、民話の現代的な翻案を吟味する研究者のネットワークの構築を目的とした出張に使用する予定である。
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