2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16707
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Research Institution | International Pacific University |
Principal Investigator |
中村 仁美 環太平洋大学, 次世代教育学部, 講師 (10739212)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | アイルランド文学 / アルスター / 南北分割 / 南北アイルランド国境地帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年、アイルランドは英国からの独立運動の誘因となったイースター蜂起(Easter Rising)から100周年を迎えた。本研究の主眼は、1920年代初頭から1949年のアイルランド共和国成立までに至る、いわゆる南北分割(partition)期のアルスター文学にある。本研究の文脈におけるアルスターとは、北アイルランドとして英国領に残留した6州とアイルランド自由国の一部となった3州を合わせた北東部9州を指す。南北分割とその結果としての国境の制定は、20世紀前半のアルスターに多くの文化的グレーゾーンを残した。このことは、アイルランド文学史においても更なる研究に値する課題と考える。 2015年度、申請者はアルスターおよび南北アイルランド国境地帯で活動していた作家の情報の発掘と作品読解に取り組んだ。既に文学史で名を馳せている作家に関しても、南北分割がその創作にもたらした影響を明らかにした。以下、その結果得られた研究成果について詳述する。 まず、国内学会での単独口頭発表を1件行った(「辺境者としてのPatrick Kavanagh」岡山英文学会第38回大会 、2015年10月)。本発表では、20世紀アイルランドを代表する詩人Patrick Kavanaghの「場所の感覚」の変遷を作品から読み取り、モナハン州国境近郊というその出自と南北分割の動乱が創作に与えた影響を明らかにした。 また、一本の単著学術論文(査読有)を発表した(「サム・ハンナ・ベルと『十二月の花嫁―アルスターへの眼差し』」日本英語英文学会『英語と文学、教育の視座』、2015年12月)。本稿では、20世紀半ばの北アイルランドで活躍した作家Sam Hanna Bellの "December Bride"(1951)を読み解き、そこから読み取れる彼の政治的かつ文化的動向に対する態度や地域主義文学への貢献を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の進捗状況はやや遅れている。経費の使用に関しては、交付申請書の「研究実施計画」に記した近代アイルランド史や文学史に関連する図書や備品も含めて、計画通りに購入することができた。また、2015年8月24日(月)から9月7日(月)までダブリン、ベルファスト、イニスキーンに滞在し、資料収集や論文執筆などの作業を行った。また、現地の研究者に面会し、本研究課題に関する議論を深めることもできた。 しかし、「研究実施計画」に記した通りには、研究成果を発表する機会が得られなかったことが反省点である。当該年度の論文と口頭発表の件数が少なかった理由として、(1)申請者がこれまで取り組んだことのない時代および分野の研究であるため、まずは知識の修得に精一杯であったこと、(2)入手した図書を読むことに研究時間の大半を費やしてしまったこと、(3)成果の発表に至るほど成熟した論の着想に至らなかったこと、などが挙げられる。2016年度には既に、2件の国際学会と2件の国内学会での単独口頭発表を予定している。今後も計画的に、そして高い意識を持って研究成果の発信に尽力する所存である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、アイルランドが独立への道を歩んだ20世紀前半、とりわけ南北分割期(1920年代初頭~1949年)のアルスターおよび南北アイルランド国境地帯の文学にいかなる特質が認められたかを示し、文学史上に一主題として提示することを最終到達点とする。2016年度と2017年度の本研究課題の遂行に関して、以下活動方針を記したい。 (1)研究成果の積極的な発表:2015年度に収集した資料に基づく考察をまとめ、学会での単独口頭発表4本とその後の学会誌への論文投稿に注力する。それらの発表に基づいた論考を、英語によるものも含め、精力的に発表する。 (2)アルスターにゆかりのある作家のさらなる発掘:これまでの本研究の対象となる作家としてShan Bullock、Patrick Kavanagh、Michael McLaverty、Sam Hanna Bell、W. R. Rodgersらの作品に着目し、関連図書を収集してきた。いずれも南北分割期に、アルスター9州に生まれたか、もしくはアルスターに根差した創作活動を行った作家である。しかし研究の遂行において、新たにSt. John Ervineなどの一世代前の作家、そしてBenedict Kielyなどの20世紀後半の北アイルランド問題(The Troubles)以後も影響力を持った作家も文脈に入れる必要があると感じた。今後も視野を狭めることなく作家を発掘し、作品の読解に努めていきたい。 (3)アイルランドでの研究活動の更なる発展:本研究ではアルスターおよび国境地帯という特定の「場所」を扱うため、実際にそこを訪れて理解を深める機会をさらに設けたい。2016年度は8月にゴールウェイでの口頭発表を控えているため、滞在期間を利用して諸研究機関を訪れたい。また、南北アイルランド国境があいだに通った湖などを訪問し、アルスター文学と「湖」の関係性についても考察を深める所存である。
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Causes of Carryover |
当初の予想よりも「物品費」や「その他」の項目に経費がかからなったことが原因と考えられる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度より「物品費」に充填したいと考える。
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