2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
15K16707
|
Research Institution | International Pacific University |
Principal Investigator |
中村 仁美 環太平洋大学, 次世代教育学部, 講師 (10739212)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | アイルランド文学 / アルスター / 南北分割 / 南北アイルランド国境地帯 / Patrick Kavanagh / Benedict Kiely |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は、英国からのアイルランド独立に付随して起こった南北分割(partition)の文学への影響について考察する本研究課題の遂行二年目にあたる。一年間を通して、国際学会での単独口頭発表二件、国内学会での単独口頭発表二件、単著学術論文(査読有)二本、研究課題に関連した会報記事二本など、研究成果の発表に尽力した。 前年度の報告書において更なる論究の必要性を記したティローン州出身の作家Benedict Kielyに関しては、『立命館英米文学』第26号に「Benedict Kielyと南北分割―Land Without Starsを読む―」と題した学術論文を発表し、彼のジャーナリストとしての伝記的背景と第一作の小説発表(1946)の繋がりに関して、研究の意義から作品中の詳細な描写までをも含めた内容を文章化してまとめた。Benedict Kielyという作家とその初期作に関し、国内で初めて刊行された学術論文であると推察する。また、『エール』第36号に発表した学術論文「パトリック・カヴァナと『アルスター』」では、詩人Patrick Kavanaghの場合、初期詩から1950年代の教区主義(parochialism)の提唱にかけて南北分割の影響が垣間見えることを論じた。この二稿により、Clare O’Halloranによる「南北分割に関するフィクションの欠如」という指摘に対し、強い反応を示していた作家や「場所の感覚(sense of place, place-sense)」を揺らがされた作家の存在、そして南北分割によって彼らの創作態度や作風が変容したさまを論証することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2016年度、本研究課題の遂行はおおむね順調になされた。学会での単独口頭発表は、2016年5月にForgotten Books and Cultural Memory: A Conference Hosted by the English Department at Taipei Tech 、7月に立命館大学英米文学会第26回大会、8月にESSE (The European Society for the Study of English) Galway 2016、9月に欧米言語文化学会関西支部設立20周年記念特別例会にて機会をいただくことができた。 上記の学会発表はすべて、アルスター9州のいずれかを出身とする作家たちの文学作品を取り上げ、英国からの独立とそれに付随した南北分割が与えた影響を検証する内容であった。とりわけ立命館大学英米文学会第26回大会とESSE Galway 2016においては、Benedict KielyとPatrick Kavanaghという二人の作家の事例に特化した内容を扱った。昨年度は学術論文(査読有)の発表が課題であったが、一年間でこの二名に関してこれらの論文を発表することができたことは収穫であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究への布石は、「大分県アイルランド研究協会会報」第32号に寄稿した「故郷と国境をめぐって―作家たちのメモワール―」、および「日本アイルランド協会会報」第96号に寄稿した「湖のアルスター」において記したものと考えている。 また、その執筆過程において次の二点の課題が浮かび上がった。すなわち、①20世紀前半の英国からの独立、そしてそれに付随した南北分割が作家たちに与えた影響は、「記録物」と「創作物(言語表現へと昇華されたもの)」とを分けて検証する必要があるが、このジャンル間の緊張や相関について更なる論究が望まれる。②特定の場所や時空間を描いた文学作品を論じる上で、人文地理学や文学理論などの知見を援用して理論的背景を明確にし、いま一度20世紀前半のアルスターという特定の時間軸と場所を描いた作品の特質を文章にまとめなければならない。 2017年度は本研究課題の最終年度にあたるため、先を見据え、次なる課題への橋脚を据え付けていく所存である。
|