2016 Fiscal Year Research-status Report
オーストリア文学における非-体験の災厄の語り E・イェリネクを例に
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15K16713
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
福岡 麻子 神戸大学, 大学教育推進機構, 准教授 (40566999)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イェリネク / 震災後文学論 / 想起の文化 / オーストリア現代文学 / ドイツ語圏文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に基づき、平成28年度は、記憶・作品を形成する〈メディウム〉という観点から研究を進めた。1)当初の計画では、書字による文学作品と他の形態の芸術との比較を行うことを予定していたが、前年度の成果、および研究協力者らからのフィードバックを踏まえ、演劇に的を絞って書字テクストとの関係・連関を考察した。2)前年度の成果から明らかになった当該年度の課題として、歴史的視点と比較文化的視点の導入があった。これらについては、オーストリア外の〈震災後文学論〉を参照しつつ考察を行った。日本学分野の国際学会における研究発表の際にも、比較文化的観点からの重要な示唆を多く得ることができた。 当該年度の成果は次のようにまとめられる。i)本研究で便宜的に「非-体験」と称している立場を、両義性という観点から改めて位置づけ、作家イェリネクの文学的方法の特色と意義を示すことができた。これは、「非-体験」という表記・観点の孕む問題ないし粗雑さをも明らかにし、本研究が目指す語りモデルの理論化の足場作りに不可欠な作業ともなった。ii)東日本大震災に対するイェリネクの応答は、単に「外」からの反応なのではなく、「当事者」は誰かという問題に改めて光をあてるものであることを示した。またこの点における日本の書き手との共通性や相違について、国内外の研究者と議論を行い、考察を深めることができた。iii)第二次世界大戦および当時のナチズムを主題とするイェリネクのテクストにもあたり、i)ii)で述べた事柄が、時間的に隔たりのある災厄との取り組みとも連関していることを明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、3年計画の本研究のうち2年目にあたる。まず、研究実績概要に示したように、1)作品やそこに用いられる文学的方法について、具体的な考察を前年度に比して深めつつ、新たな視点や課題の発見にも至ることができ、2)研究全体の最終的な目的である「非-体験の災厄の語り」の一モデル構築・理論化に不可欠と思われる観点を洗い出すことができた。3)また、成果発表も順調なペースで行うことができたため、研究期間の中間部としてしかるべき進捗を果たしたといってよい。 とりわけ、招待発表を含む国際学会(於東京、於ウィーン)での研究発表は、成果を広く問う機会となった。本研究指定の研究協力者にとどまらず、日本学や映画研究など、様々な分野の内外の専門家と議論を行えたことは、日本国内ではまだ萌芽の状態にあるイェリネク研究を進める本プロジェクトとして、大きな収穫である。当該学会で交流の持てた研究者らとは、災厄との取り組みという共通テーマのもと、共同研究発表を計画するに至り、研究の最終年度に向けて弾みをつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、3年計画の本研究のうち、最終年度にあたる。従って、当初よりの目的である、「非-体験の災厄の語り」モデルの一つの可能性を提示すること、またそのためにここまでの考察を発展的にまとめることが、主な作業となる。その際に主な観点とするのが、i)災厄を「体験していない」立場における〈両義性〉、ii)比較文化的な観点である。実績概要にも述べたように、これら2点は、文献や専門家との議論を通じ、オーストリア外の災厄論・「震災後文学論」を参照する中で明らかになった、今日的なカタストロフィ論の核心をなすと思われる観点である。具体的な作業としては以下を計画している。 1)これまでの2年間で収集しえた先行研究・およびカタストロフィ論の再度見直し、本研究の理論的基盤の整理 2)これまでの2年間に行った作品分析の総括、関連するさらなる作品の考察 3)「非-体験の災厄の語り」の一つのモデルの提示 4)上述共同研究発表を含む研究発表、国内外の学術誌への論文投稿による成果発表
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Research Products
(3 results)