2017 Fiscal Year Annual Research Report
How catastrophic events are narrated by someone who is not personally involved: narrative strategies in contemporary Austrian literature.
Project/Area Number |
15K16713
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
福岡 麻子 神戸大学, 大学教育推進機構, 准教授 (40566999)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イェリネク / 震災後文学論 / 想起の文化 / オーストリア現代文学 / ドイツ語圏文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度(プロジェクト最終年度)は、研究計画に従い、 1)「非-体験の災厄の語り」モデルの一つの可能性を提示し、2)そのためにここまでの考察を発展的にまとめた。オーストリア作家としてのイェリネクにとって地理的に隔てられた「東日本大震災」とどのように取り組んでいるかを中心的な例とした。 本研究では便宜的に「非-体験」と記しているが、前年度の成果でも明らかになったように、多くの文学作品において、地理的・時間的に隔てられた災厄は、「体験していない」という事態そのものだけでなく、「伝聞」のモードに依拠して描かれることも多い。本研究では、何らかのメディアを介して出来事にアクセスしたという〈媒介性〉そのものにこそ、現代文学の本質的な問題性が表れていると考えた。そこで「体験した/していない」の二分法から離れ、〈両義性〉という観点から、作家イェリネクの「引用」の方法について考察した。引用は、イェリネクがデビュー以来多用し、東日本大震災、そして原発事故への(ヨーロッパからの)応答として発表した『光のない』においても駆使している方法である。本研究では、この引用という方法が、それがもたらすテクストの多層性ゆえ、「非-体験の災厄の語り」として示唆的な構造を持ち、一つのモデルとなりうることを示した。その際、戦後生まれのイェリネクが、オーストリアのホロコーストという過去とどのように取り組んでいるかについても検討し、考察の示唆を得た。 成果は二つの国際学会での発表(査読付きパネル一件、招待講演一件)の形で広く問うことができた。また、パネルで共同発表を行った研究者ら(ウィーン大学他)とは、共著書の出版を計画・準備を進めている。彼らとは2016年開催の国際学会(ウィーン大学)以来、共同発表、出版計画と歩を進めており、持続的な共同研究体制を開拓できたことも成果の一つである。
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Research Products
(3 results)