2017 Fiscal Year Research-status Report
解放期「朝鮮演劇」のアイデンティティ再構築に関する基礎的研究
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15K16727
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
金 牡蘭 早稲田大学, グローバルエデュケーションセンター, 准教授(任期付) (90732941)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 演劇伝統 / 唱劇 / 解放期 / 朝鮮 / 韓曉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、朝鮮半島の解放期(1940年代後半)において、「朝鮮演劇」のアイデンティティがどのように再構築されるのかを、植民地期における朝鮮演劇の諸経験を参照しながら、つまり植民地期との連続と断絶に注目しながら考察することをその目的とする。今年度の研究は、その中でも朝鮮半島の解放期における「朝鮮演劇」の演劇伝統に関する言説を分析することに集中した。20世紀の初頭に西欧の演劇概念が輸入されてから、近代以前の演芸ジャンルであるパンソリなどが、朝鮮半島の演劇遺産として認識されるが、このような演劇的伝統に関する言説が、解放期において、どのような様相を見せているかを分析した。具体的には、1908年に発生し、1930年代に典型化される唱劇というジャンルを扱っている。植民地期の朝鮮では、西欧や日本に倣って新劇運動も活発に行われたが、大衆の支持を得て、その命脈を維持できたのは、むしろ唱劇のように伝統的な様式に基盤した大衆的なジャンルであった。本研究は、唱劇が1940年代の国民演劇の時代を経て、解放期においても活発に公演されていたことに注目した。そして、一般的には植民地期との完全なる断絶とともに、演劇伝統の不在が叫ばれ、嘆かれる中で、こうした伝統的な演劇様式の現状を前提として、朝鮮の演劇伝統を肯定し、その継承を論じた韓曉の伝統論に注目した。韓曉は後に北朝鮮に移り、その地で『朝鮮演劇史概要』(1956)を執筆することになるが、こうした演劇伝統への関心の発端を彼の解放期の活動で見出し、その意味を考えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2016年度の第2子出産に伴い、資料収集のための出張や、研究のための時間など、全般的な研究環境が、予定していたような水準で確保出来なかったため。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究が解放期全体における朝鮮演劇のアイデンティティの再構築を研究対象としながらも、その実においては主に1948年以前の、左派の演劇人たちが活発に活動していた時期に限られていた。これを補完するために、1948年以降右派の演劇人たちがアメリカのバックアップの中で台頭し、復活を遂げる時期のことを、今後中心的に考察していきたい。 また、来年度は研究の最終年度に当たるので、これまで研究発表などの形でしか発信していなかった成果を、さらに発展させて、論文の形で世に出す作業を今後重点的にやっていく予定である。
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Causes of Carryover |
第2子出産にともない、予定していた回数の出張が出来なかったため。
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