2015 Fiscal Year Research-status Report
日本語とカクチケル語の比較研究による言語の普遍性と多様性の神経基盤の解明
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15K16733
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
太田 真理 東京大学, 総合文化研究科, 特任研究員 (20750045)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 言語 / fMRI / 語順 / ブローカ野 / ウェルニッケ野 / かき混ぜ / 主題化 / カクチケル・マヤ語 |
Outline of Annual Research Achievements |
中米グアテマラの少数言語であるカクチケル語の母語話者を対象に、機能的磁気共鳴画像法 (functional magnetic resonance imaging, fMRI)による脳活動の計測および解析を実施した。カクチケル語の基本語順はVOSであるが、かき混ぜ操作や主題化操作により、SVO、VSO、OVSなどの様々な語順を文法的に許容する。実験では、文の意味と絵の内容が一致するかどうかを判断する「文‐絵マッチング課題」を用い、かき混ぜ操作と主題化操作によって脳活動が変化する領域を2要因の共分散分析により調べた。その結果、かき混ぜ操作を含む文では、左下前頭回と左外側運動前野を中心とする領域の活動が上昇することが明らかとなった。これらの脳領域は文法処理に特化した文法中枢であると提案されており、これらの脳活動は文法処理の負荷を反映していると考えられる。また、主題化操作を含まない文では、両側のヘッシェル回および上側頭回で脳活動の上昇が見られた。主題化に伴って語順やプロソディが変化することで文の理解が容易になると考えられるため、両側の側頭葉の脳活動は意味処理や音韻処理の負荷を反映していると考えられる。以上の結果は、文法処理と意味処理・音韻処理が脳の異なる領域で処理されることを示していた。カクチケル語母語話者における語順変化に伴う脳活動の変化について、国内学会(第38回日本神経科学大会)および国際学会(Seventh Annual Society for the Neurobiology of Language Conference、Experimental Approaches to Arabic and other understudied Languages)にて発表した。現在、査読付き論文として国際誌に投稿する準備を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、カクチケル語母語話者のfMRIデータの収集・解析を中心に実施した。また、日本語を母語とする右利き成人24名を対象にfMRIデータの収集も行った。カクチケル語母語話者のデータに関して、当初の想定通り、語順変化に伴って脳活動が変化する複数の領域を特定した。さらに、かき混ぜ操作と主題化操作という語順変化を伴う2種類の統語操作に関して、ブローカ野とウェルニッケ野という言語処理に関わる異なる脳領域が、それぞれ選択的な脳活動の変化を示すことも明らかにした。特に、かき混ぜ操作を行う語順では、左下前頭回および左外側運動前野に局所的な脳活動の増加が観察されたが、これは日本語のかき混ぜ語順で観察された脳活動の変化と一致するものであった。また、主題化操作を行わない語順のほうが意味処理や音韻処理の負荷が高くなるという、実験開始前に予想していない結果も得られた。現在、これらの結果を投稿論文としてまとめており、これは当初の想定通りの進捗状況である。 カクチケル語母語話者のデータに加えて、すでに日本語母語話者のfMRIデータを収集しているが、引き続きデータの収集を進めるとともに、脳活動の解析も順次進めることを予定している。特に、カクチケル語母語話者と日本語母語話者のfMRIデータを比較することで、両者で共通した脳活動の変化を示す領域を特定することを目指す。これにより、自然言語に普遍的な階層的な統語構造を処理する脳領域を明らかにすることができると考えている。また、カクチケル語母語話者と日本語母語話者で異なる脳活動を示す領域も特定することで、各言語に固有の語順を処理する脳領域を明らかにしたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、カクチケル語母語話者の実験成果を論文として投稿する準備を進める。また、日本語母語話者のfMRIデータを収集するとともに、日本語母語話者とカクチケル語母語話者のfMRIデータの比較を行うことを予定している。解析はSPM12というソフトウェアを用いた標準的手法で行う。脳活動の解析は、参加者グループの主効果(日本語母語話者 vs. カクチケル語母語話者)×言語内の語順の主効果(日本語、カクチケル語ともに4 種類の文を使用)の2要因の対応のある共分散分析によって行う。具体的には以下の検討を行う予定である。 1. まず日本語話者の中で、①「SがOをVする」、②「SはOをVする」、③「OをSがVする」、④「OはSがVする」の各々で、語順の効果による脳活動の変化を、対応のある分散分析によって調べる。日本語の語順はSOVまたはOSVであるのに対して、カクチケル語の実験で使用した語順はVOS、SVO、VSO、OVSであり、これらの言語を合わせると可能な6種類の語順の全てを網羅することができる。さらに、両言語間で語順は完全に異なるため、語順の違いを処理する領域は、日本語話者とカクチケル語話者の間で異なり、脳活動のパターンもそれぞれで異なると考えられる。 2. 日本語とカクチケル語の文構造は、基本的に左右対称のミラーイメージであるため、文の統語構造の違いに伴う脳活動の変化は、日本語とカクチケル語で共通すると考えられる。日本語母語話者とカクチケル語母語話者で、脳活動が同じように変化した領域を調べることで、全ての自然言語に共通すると考えられる、文の統語構造を処理する神経基盤を明らかにする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、主に以下の2点のためである。1. 実験参加者の数が当初の予定よりも少なかったために謝金の支払額が減少したこと、2. 当初想定していたよりも海外旅費の支払が少額だったこと。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については、平成28年度に行う実験の被験者謝金として使用することを考えている。
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Research Products
(4 results)