2017 Fiscal Year Research-status Report
視聴覚コーパスに基づくオノマトペの実証的語用論研究
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15K16741
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
秋田 喜美 名古屋大学, 人文学研究科, 准教授 (20624208)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | オノマトペ / 擬音語・擬態語 / 類像性 / マルチモダリティー / コーパス / パラ言語 / 音象徴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、本研究課題の中心テーマである日本語オノマトペ(擬音語・擬態語)と非言語的振る舞いの共起関係に関する論文を仕上げたほか、新たな関連プロジェクトを多数始動させた。 まず、オノマトペの非言語的特徴については、『NHK東日本大震災アーカイブス』を利用して、話し手の表情と視線(聞き手とのアイコンタクト、聞き手からの視線の逸らし)の頻度を観察した。論文では、オノマトペが一般語よりもこれらの非言語的特徴を伴いやすいことなどを指摘し、コミュニケーションにおけるオノマトペの役割という新領域に対し基礎的知見を提供している。同論文は、国立国語研究所のプラシャント=パルデシ氏と編集中のオノマトペに関する論文集に収録される。 また、空間移動事象を表すオノマトペと身振り・手話の意味比較について研究発表を行い、論文化した。この論文は、「類像性の媒体差」というホットな課題に実証的に取り組んでいる。これに関連して、オノマトペにとっての類像性の役割の限界に関する講演をマックス・プランク心理言語学研究所主催のワークショップで行った。 加えて、本研究課題から派生的に生まれた単発の研究として、日本語の重複・非重複オノマトペの体系的比較、オノマトペの「共感覚的比喩」の批判的再考、「オノマトペ+いく」(例:グイグイいく、ポキッといく)の構文形態論的分析、新奇複合形容詞(例:ゆるふわ、サクうま)の形態論的分析(南山大学の村杉恵子氏と共同)などを行った。さらに、「い」よりも「あ」が大きい対象と結びつきやすいなどの「音象徴現象」の通言語比較に向け、言語類型論で用いられる「意味地図」による記述プロジェクトを開始した。 また、国立国語研究所主催のNINJALフォーラム「オノマトペの魅力と不思議」にて一般講演を行ったほか、南山大学の村杉恵子氏とともにWorkshop on Mimeticsというオノマトペに関するワークショップシリーズを開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多くの研究プロジェクトの始動と派生的研究の発展については、想定以上の成果となった。これらは、いずれも次の研究課題へとつながるものである。 一方で、本研究課題の中心をなす「オノマトペの語用論」に関しては、一本の論文が完成したのみという段階にある。その原因としては、派生的研究などに力を注いだことに加え、手法上の限界がある。視聴覚コーパスを用いたオノマトペの語用論的機能の追究は、分析手法ないし理論的枠組みの開拓を必要とし、この開拓が思いのほか時間と労力を取っているのである。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の手法・枠組みの開拓の問題を踏まえ、本研究課題の最終年度となる2018年度は、派生的研究を進めつつ、オノマトペの語用論の手法的・理論的基礎の構築に尽力できればと思う。非言語的振る舞いをコーディングした視聴覚コーパスデータは、それだけでも価値のあるものであり、他の研究への援用も期待できる。本研究課題の残りの時間で、こうしたコーディングをさらに充実させる(例:表情や発声法の細分、発話速度の測定)とともに、次の研究課題への道筋を立てたいと思う。また、派生的研究については、随時論文化を試みたい。
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Causes of Carryover |
年度内に予定していた国際会議での発表が、マックス・プランク心理言語学研究所(オランダ)での招待講演となったため、その分の旅費が節約された。次年度の海外旅費として使用予定である。また、購入を予定していた専門書の出版が延期となったため、次年度購入することとした。
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