2015 Fiscal Year Research-status Report
素性継承システムのパラメータ化に基づくV2現象の共時的・通時的研究
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15K16749
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Research Institution | Chukyo University |
Principal Investigator |
三上 傑 中京大学, 国際教養学部, 講師 (60706795)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | V2現象 / 素性継承システムのパラメータ化 / 共時的研究 / 通時的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、英語におけるV2現象の史的変化に関する考察を進め、素性継承システムのパラメータ化の枠組みの下で同一言語内の通時的変化を捉える可能性について探った。 具体的には、LIC語順(Location(PP)-V-Subject(NP))に焦点を当て、それが使用されている文脈や生起可能な動詞のタイプについて、初期中英語期の文献(Canterbury Tales・Mandeville’s Travels等)を調査した。現代英語では特殊構文として位置付けられているLICであるが、V2現象が許されていた初期中英語期には、現在のLICと比べて幅広い文脈で使用され、様々なタイプの動詞と生起していたことが観察され、当該構文の特殊構文としての機能は当時まだ確立されていなかったことが明らかとなった。そして、その特殊構文化は、後期中英語期に英語の統語システムが焦点卓越型から主語卓越型へパラメータ変化したことにより、V2現象の衰退とともに生じたという分析を提示した。 また、主語卓越言語と焦点卓越言語という言語区分で自然言語の普遍性と多様性を捉えた場合の理論的含意についても考察し、当該パラメータが、Tの有するEPP素性の満たし方に加え、Minimalityの計算システムや(strong) Phaseの形成システムに関しても、両言語タイプ間にパラメータ的相違をもたらすことを明らかにした。これに従えば、現代日本語をはじめとする焦点卓越言語では、非主語要素の主語要素を越えてのA移動や定形節境界を越えての長距離A移動等、主語卓越言語では決して許されることのないタイプのA移動の存在が予測されることになる。この予測に関して、日本語の長距離スクランブリングが示す「A移動」特性の存在を明らかにした上で、当該枠組みの下、それらの事実に対して原理的な説明を与えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、Miyagawa(2010)において提案されている素性継承システムのパラメータ化の枠組みの下、V2現象に関する同一言語内の通時的変化と言語間の共時的多様性を統一的に捉えることで、当該パラメータの妥当性を多角的に立証することである。 この最終目標の達成に向け、平成27年度は、英語におけるV2現象の史的変化に関する詳細な検討を行った。そして、後期中英語期におけるV2現象の衰退は、英語の統語システムが焦点卓越型から主語卓越型へパラメータ変化したのに伴い生じたことを明らかにした。また、V2現象以外のいくつかの通時的変化に関しても、当該パラメータ値の変化の帰結として捉えられる可能性を提示した。さらに、これと並行して、当該パラメータによりもたらされる理論的含意についても検討を行った。これまで指摘されてきたことに加え、ミニマリスト・プログラムの中で中核的な役割を担うMinimalityの計算システムや(strong) Phaseの形成システムに関しても、両言語タイプ間にパラメータ的相違がもたらされることを明らかにし、現代日本語が示すスクランブリングの特異性の一端に対して説明を与えることができた。スクランブリングを許す現代日本語とV2現象を示す古・初期中英語がともに焦点卓越言語であることを考えれば、この進展も、本研究の最終目標の達成に向けて大きなステップになるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究成果と本研究全体の目標に鑑み、今後は以下に示した方策・観点で研究を推進していきたい。(1)英語の通時的変化に関して、分析対象とする統語現象を大幅に広げる。平成27年度は主にLIC語順を分析対象としたが、今後はTransitive Expletive Constructionをはじめとする様々なタイプのThere構文や間接受動態にまで範囲を広げ、素性継承システムのパラメータ化に基づく本研究の通時的研究への適用可能性について、さらに立証を進める。(2)当該パラメータの下で現代ヨーロッパ諸語におけるV2現象の多様性を捉える共時的研究に着手する。具体的には、V2現象を示すとされるドイツ語・アイスランド語等に関する共時的研究を通して、その特性を明らかにする。そして、V2現象を示さない現代英語との比較やV2現象を示す古・初期中英語との比較、さらにはスクランブリングを許す現代日本語との比較を行う。なお、データの収集と観察にあたっては、記述文法書や先行研究、主要文献の講読に加え、電子コーパスを活用し、幅広い情報の収集と整理に努め、その膨大な言語データに裏付けられた知見を積極的に取り込んでいきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
平成28年度より研究代表者の所属機関が変更するにあたり、研究環境を新たに整備する必要が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
データを収集・整理するためのパソコンを購入するとともに、言語学関係の文献・辞書類を購入する。
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