2016 Fiscal Year Research-status Report
分散形態論を用いた日本語の時・法と語性の形式的研究
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15K16758
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田川 拓海 筑波大学, 人文社会系, 助教 (20634447)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 時制 / 不定形 / ル形・終止形 / モダリティ / 動名詞 / 語性 / 形態的複雑性 / 分散形態論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1 定性の観点から見たル形の研究、と2 語性を明らかにするための語形成の研究、に大きく分けられる。1については、並列詞「か」によって接続される選言等位節を対象に統語的分析を行い、述語の形態は同じル形であっても、その節は様々な大きさの統語構造を持っていることを詳細かつ具体的に示した。この成果は刊行予定の論文集『テンス・アスペクト研究を問い直す 第1巻「する」』に掲載される「不定(形)としてのル形と「か」選言等位節」と題する論文によって公開される。2については、これまで研究の少なかった外来語動名詞と比較することによって、一字漢語動名詞と二字漢語動名詞の振る舞いの違いが形態の数とは直接関係しないことを明らかにし、外来語動名詞を自他の観点から分類した際に漢語動名詞とはその分布が異なることを明らかにした。この成果はすでに刊行された論文集『日本語文法研究のフロンティア』に収録の「動名詞の構造と「する」「させる」の分布―漢語と外来語の比較―」と題した論文によって公開された。さらに、「形容詞+する」という組み合わせによって形成される表現が、全体としては明らかに句であるにも関わらず、一種語彙的な性質を持つこと、一部に独特な振る舞いを見せるタイプが存在することを示し、詳細な記述を行った。この成果は『文藝言語研究』第71巻に収録の「動作動詞句を形成する「形容詞ク形+する」」と題する論文によって公開されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1 定性の観点から見たル形の研究については、ル形と時制・モダリティおよび定性の間に複雑な対応関係が存在することを複数の言語現象を通して明らかにすることができた。一方で、その理論的研究においては、従来の研究の問題点の検討を含め一通り整理することができたものの、十全な分析モデル構築にはまだ至っていない。特に時制句と定性句の位置づけ、両者の関係、存在する素性とその統語的機能についてさらに詰める必要がある。2 語性を明らかにするための語形成の研究については、当初の予想を超えた記述・分析の成果が得られているが、語性そのものに関する理論的研究が十分に整備できていない。これは上記1)の分析モデル構築と密接な関わりがあるため、ともに進めることによって達成できると見込んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
1 定性の観点から見たル形の研究については、定性、時制、モダリティおよびそれらの関係性について重要な問題提起と新たなデータをもたらす反事実命令文の分析を進める。これによって、日本語においても統語的に定性句の存在が必要であることが経験的に示され、命令文が意志文等の他の表現と統語的・意味的に共通の基盤を持つとする分析の妥当性が明らかになる。2 語性を明らかにするための語形成の研究については、本研究で得られた連用形名詞および外来語動名詞に関する語彙のデータを整理し、言語研究に有用な形で公開する準備を進める。また、両研究に深く関わる問題であることが明らかになった局所性と異形態・補充形の関係についてもさらに分析を行い、統語構造と形態を必要十分な形で対応づけるモデル構築を進める。全体に関わる課題として、本研究の基盤となっている分散形態論そのものの理論的検討と整備・整理をさらに進め、日本語の分析にも有用であることを検証する。
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Causes of Carryover |
前年度の成果によって、本研究が持つ射程の広さが明確になった。このため、前年度に実施する予定であった研究成果を国際学会・国際誌、国内学会・国内雑誌それぞれに発表する準備を進めており、旅費および英文校正に関する経費を次年度使用額とした。また、語形成に関するデータの収集は進んでいるが、まだ大部分が未整理の状態となっており研究代表者のみではデータベースとして利用可能な段階まで到達させるのが困難であると考えられる。このため、データの整理および公開の準備について、短期雇用者の雇用が必要である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費については、研究に必要な図書(特に分散形態論をはじめとした形態理論、時制・モダリティ研究、語形成研究に関するもの)の購入を随時進める。また、主にデータの整理に関する作業のためのストレージデバイス、周辺機器、関連するコンピュータソフトを購入する。旅費については学会などにおける成果発表、それに伴うデータ収集・研究打ち合わせに使用する。2件の国際学会(イギリス、アメリカ)、2件の全国規模の国内学会(京都、茨城)の発表への応募を予定している。国際学会への応募および国際誌への投稿のために、有料の英文校正サービスを利用する。さらに人件費として、データ整理のため短期雇用1名を予定している。
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