2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16760
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
石山 裕慈 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (70552884)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 日本漢字音 / 呉音 / 漢音 / 整備 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の1年目に当たる今期は、3年間の研究を遂行するにあたっての基礎的な研究環境の整備に力点を置いた。まず、記入者の勤務校は日本漢字音史・音韻史に関わる文献を存外所蔵していないことから、小倉肇『日本呉音の研究』をはじめとする研究書や、中世に書写された「論語集解」、「仮名書き論語」の影印といった一次資料を、積極的に購入した。 本研究では、「論語」に記入された字音点を通して、日本漢音の整備・受容のあり方を解明することを目指しているところである。今期は足利学校・慶応義塾大学指導文庫に出向き、足利学校系の「論語」古抄本を実地調査し、可能な範囲で複写物も調達した。足利学校で特段の字音伝承が行われた形跡が見いだせない一方で、加点者が庠主(=校長)クラスかそうでないかによって、加点密度や規範性に差が見られるのではないかという見通しは得たところである。今後このような調査の中で、資料を撮影する機会も増えると思われたことから、デジタルカメラ一式を購入した。 最後に、江戸時代における豪韻唇音声母字(宝・毛など、「ホウ」「モウ」などが期待される一群)の字音仮名遣いの研究史を考察した。これらは日本漢字音では、呉音・漢音に関わらず「ホウ」「モウ」などが期待されるところであるが、江戸時代の研究の中で「呉音…ホウ・モウ、漢音…ハウ・マウ」と誤認された時期があり、これは万葉仮名や韻書・韻図を研究したゆえの錯誤と見られる。これについては本年度中の発表・公開には至らなかったが、次年度早々に学会発表を行うことにより成果を公表する段取りで、本報告書執筆時点ですでに発表を終えたところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、古写本などの一次資料を調査する旅費として相当額を計上していたところであるが、校務その他の理由によりまとまった日程が確保できず、実地調査とその解析は不十分であった。その分の予算は研究書などの購入に回し、積極的に資料収集を行ったところである。また、実地調査の回数は少なかったものの、その中からある程度の収穫も得た。 その一方で、研究開始当初はあまり想定していなかったものの、「研究実績の概要」で述べた、豪韻唇音声母字についての研究が思いのほかはかどったという誤算も生じた。そこで、まずはこちらを研究成果として形にする方策に切り替え、28年度開始早々に学会発表できる道筋を整えたところである。 ところで、本研究の仕上げのような形で、現代日本語における漢字音受容のあり方についても考察する算段であったところ、海外他研究機関との共同シンポジウムの開催が持ち上がった。記入者が持ち合わせている題材や、本研究に残されている時間、また日本語史を専門としない研究者が相手であることなどを考え合わせると、むしろこの会合を本研究の一環として組み込み、現代日本語の漢字音の実態を押さえた上で、その成果を踏まえつつ室町時代以降の実態を考察するという順序に改める方が得策と思われた。28年6月の開催に向け、用例調査・分析に取りかかっているところである。 このように、当初意図した形からは研究の方向性や順序が外れてきてはいるが、最終目的に向かって着々と進んではいるという実感を得ていることから、「おおむね順調」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の想定と異なっていたことの一つとして、回答を保留しているものも含め、各種のシンポジウムや学会などで発表する打診・機会を多数頂いているという事情がある。記入者にとっては研究成果公開の機会に恵まれた状況にあると言えるが、国学関係・日中対照研究など、それぞれの会の趣旨も当然存在している。そこで、各々の会の性質と本研究との接点を見出しつつ、個々の事柄を掘り進めていく方策をとることにした。「現在までの進捗状況」で書いたような、当初3年目に行う予定だった事柄を2年目に移動させる対応も、その一環である。 その一方で、足利学校で書写された「論語」における漢音形の伝承のあり方のような課題は、数ヶ月単位で成果を得られることが困難で、また題を与えられたシンポジウムなどとの親和性も低いと考えられるところである。このような事柄については、従来行ってきたような、中期的な計画の下、研究を進めることとする。すなわち、実地に文献を調査し、用例を分析するとともに、研究文献を購入するなどの従来の方策を続けた上で、本研究期間内にある程度の見通しを得て、査読つきの雑誌に研究成果を投稿することを目指すものとする。 当初予定していた研究方針から微修正したところもあるが、しかし本研究の全体的な方向性は維持しつつ、また個々の事柄が拡散しないよう注意しながら、日本漢字音の整備のありかたを様々な方向から考察してゆくことをもくろんでいる。
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Causes of Carryover |
当初、古写本などの一次資料を調査する旅費として相当額を見込んでいたところであったが、校務その他の事情から、まとまった日程が確保できなかったことから、出張回数も1回にとどまり、旅費相当額の残額が思いのほか生じた。その一部は書籍の購入代などに充てたが、28年度に、後述するような支出予定が発生したことから、本年度に使い切ることは避け、一部を翌年度に温存することにしたため、若干の次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年6月に、中国の研究機関との共同シンポジウムに出席し、研究成果の一部を発表する予定である。このような機会を得ることは、本研究の立案段階では想定していなかったものであり、前年度からの繰越金を、渡航費用の一部に充てることとする。また、出先ででも用例のデータ入力・分析を行えるよう、タブレット端末またはノートパソコンを購入することを、本研究の立案当初から計画してきたところであり、その原資としても活用する。
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Research Products
(1 results)