2017 Fiscal Year Annual Research Report
A Philological study on Gukansho
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15K16837
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Research Institution | Koyasan University |
Principal Investigator |
坂口 太郎 高野山大学, 文学部, 助教 (50724142)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 『愚管抄』 / 慈円 / 『本尊釈問答』 / 青蓮院門跡吉水蔵聖教 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、『愚管抄』とその著者慈円について、慈円関係の聖教を主たる素材として研究を進めた。 『愚管抄』の研究において重要であるのは、その成立をめぐる諸問題である。同書の成立については、かつて承久の乱前と乱後の二説が対立し、熾烈な論争も繰り広げられたが、戦後の塩見薫氏や赤松俊秀氏らの研究によって、承久の乱前に成立したことが学界で認められるに至った。 ただし、『愚管抄』の成立過程や読者対象などは未だ明らかではなく、なお究明の余地が残されている。何よりも『愚管抄』の成立を考える上では、『愚管抄』本文の精読のみならず、鎌倉初期の公武両政権を中心とする政治状況への透徹した理解、青蓮院を始めとする天台宗寺院に伝来する慈円関係の聖教への十分な目配りが肝要である。 このような問題関心に基づき、研究代表者はこれまで史料調査を行なってきたところ、複数の重要史料を見出すに至った。その中でも特筆すべきは、慈円の撰述にかかる『本尊釈問答』(青蓮院門跡吉水蔵聖教、東京大学史料編纂所架蔵マイクロフィルムによる)である。同書は漢文体の著作であり、承久2年(1220)正月に比叡山の無動寺大乗院で成立した。この書物の前半部分において、慈円は建保7年(1219)に起きた源実朝暗殺事件と三寅(のちの九条頼経)の関東下向の背景に八幡大菩薩の神意を読み取るとともに、日本国における「主上」「執政臣」「太上天皇」「武将」の関係性についても詳細に論じている。鎌倉幕府論を十分に展開できていない点は、『愚管抄』に比して未成熟さを示すが、反面で慈円における歴史的思考の形成を段階的に捉えることができる。また、慈円は、『本尊釈問答』において「一巻道理」を書いたと記しており、これは『愚管抄』の原型をなしたものと考えられる。以上の点については、一層の考察を行ない、論文化を行なう予定である。
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