2015 Fiscal Year Research-status Report
近世後期・幕末維新期日朝間における海外事件情報流通の研究―対馬藩宗家史料を中心に
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15K16842
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Research Institution | Kitakyushu Museum of Natural History and Human History |
Principal Investigator |
守友 隆 北九州市立自然史・歴史博物館, 歴史課, 学芸員 (60610847)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 三都・長崎以外の蔵屋敷 / 御用達 / 文化度通信使 / 小倉藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は対馬藩の出先機関である倭館を含む朝鮮―対馬(対馬藩庁)間の情報流通の実相を明らかにし、そのうえで、その情報によって幕府・対馬藩を始めとする諸藩がどのような政策をとったかを分析するものである。 本年度は対馬藩のなかでも重要な情報流通の拠点であったと考えられる対馬本島の藩庁・博多の同藩蔵屋敷・同藩の飛び地にある肥前国田代代官所の3ヶ所における人・物・情報の動きの解明に取り組んだ。対馬本島―田代領間において、年貢米などの物資は筑後川・有明海を経由して本島に運ばれるが、本島・代官所を往来する藩士は博多の同藩蔵屋敷を経由するルートをとることを明らかにした。藩士が情報の受発信の主体と考えるとその動向は重要である。 また、本研究の主たる対象時期である幕末期、博多の対馬藩蔵屋敷を拠点として、福岡藩・佐賀藩・長州藩などと情報のやり取りが行われていたことを明らかにした。それは藩と藩という《公的》な場合と、特定の思想を持つ藩士(志士)同士という《私的》な場合という二つに大まかに区分できる。特に藩士(志士)同士のやり取りとして、大島友之允(正朝)と木戸孝允の丙寅洋擾に関するものがある。朝鮮情報が対馬藩士大島友之允から木戸孝允を通じて長州藩に伝わっていたことが分かる事例である。これらの事例で重要な点は三都・長崎以外の蔵屋敷が拠点ということである。 加えて、上述のものとは視点を変え、対馬―九州本島間における他の情報流通経路の解明を試みた。文化8年(1811)の朝鮮通信使来日、いわゆる易地聘礼で幕府から対馬に派遣される「上使」に任命された小倉藩主小笠原忠固の小倉藩と対馬藩の通信使応接準備のための折衝が江戸・小倉で行われている。諸藩江戸留守居役の情報交換に関しては多くの研究があるが、この対馬藩と小倉藩の折衝においては小倉城下の対馬藩御用達商人が仲介役となっていたという事例を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は研究目的を達成するための基本的な事実確認作業に傾注してしまい、これまでに確認済みの史料の分析がほとんどとなってしまった。次年度以降は国内外の史料調査を行い、新たな史料を発掘できるよう努める。ただ、事実確認をしっかりと行ったことにより遅れを取り戻すことは容易と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
一つは引き続き対馬藩の藩政文書であり、国内外の諸機関に所蔵されている「対馬宗家文書」の調査と、その調査史料の分析を行う。 いま一つは本年度までの研究で明らかになったように、小倉藩小笠原家の藩政史料である「小笠原文庫」(福岡県京都郡みやこ町歴史民俗博物館所蔵)・「小笠原家文書」(北九州市立自然史・歴史博物館所蔵)、福岡藩の朝鮮通信使関係の史料「黒田家文書」(福岡県立図書館所蔵)などといった対馬藩・朝鮮通信使関係の対馬藩外の史料の調査を行う。そのようにして、中国―朝鮮半島―対馬―九州本島―日本全国間で情報がどのように往き来していたかを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
諸事情により当初予定していた国内外の史料調査を実施できなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初予定していた国内外の史料調査を実施する。
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