2015 Fiscal Year Research-status Report
19世紀中葉の交通網整備によるインド西部の町ネットワークの変化
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15K16843
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 道大 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (30712567)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | インド / 開発 / 植民地 / GIS / ボンベイ |
Outline of Annual Research Achievements |
都市と農村を空間的・経済的に結びつけた都市のネットワークに関して、代表者は2つの方向で分析を進めた。第1の方向は、鉄道敷設による終着駅ボンベイ市の発展に関する研究である。申請時には、ボンベイ市・ボンベイ港の分析に関しては、先行研究に依拠することとしていたが、鉄道と町の形成の史資料を収集する中で、ボンベイ市の発展と鉄道の関係について手付かずの史資料が多く残存していると共に、従来の研究のみでは、代表者の関心である、19世紀後半の町と都市の関係が十分にわからないことが明らかになった。そこで代表者は、鉄道の終着駅である輸出港のボンベイ市を本事業の対象とし、鉄道敷設と綿花の一時的な輸出ブームによって、ボンベイ市のハードインフラが15年弱で急速に整えられていったこと、そして急速なインフラ整備の担い手が鉄道の関連企業であったことを解明し、ボンベイ市発展と鉄道敷設の関係を明らかにした。 第2の方向は、インド西部内陸地方における地税制度の展開と開発の関係についての研究である。代表は、これまで前植民地期から植民地期への地税制度の変遷を解明してきた。本年度は、植民地期における地税制度実施の空間的展開をGISを用いて解明した。これにより、本事業の焦点の一つであるショラプールを含む綿花栽培・交易地域において、新地税制度への転換を植民地政府が積極的に進めており、同地域が開発重点地域であることが判明した。 これら2方向の研究分析から、1818年にイギリスがインド西部を植民地化した後に、綿花栽培・交易地域の開発を重視したこと、そしてその開発が鉄道を通じて、西部の植民地拠点であるボンベイ市を急速発展させるほどの影響力をもったことがわかった。本事業が対象とする綿花地帯内の町は、開発の中心にあった。開発によって、在地の町ネットワークがどのように変容したかを解明することが次年度の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の課題は、インド西部の鉄道敷設史資料を収集すること、および植民地期以前の通関税史料の収集・分析の継続、ロンドンの大英図書館とデリーの国立文書館で収集することであった。空間的には、鉄道敷設による都市と町の関係変化と、町内部の社会経済変化を分けて行うことと計画した。 平成28年度の課題遂行にあたり、代表者は研究範囲を拡大し、鉄道の終着駅であり、港湾都市であるボンベイを対象とした。これにより内陸都市の開発の影響をより明白に理解することができ、計画時以上の成果が得られたといえる。ただしマハーラーシュトラ州立文書館ムンバイ本館や大英図書館で調査を行わなかったため、都市と町との関係変化を示す新たな統計資料を入手することができなかった。これは次年度以降の課題とする。 交易拠点となる町の統計分析に関しては、新地税制度導入との関係に注目し、国内で入手できる地税取決め報告書をGISによって分析した。これによって内陸交易の全体像を見出すことに成功し、ショラプール、テンブールニなど、いくつかの交易拠点を見出すことに成功した。この点に関して計画時の課題は遂行された。通関税記録の収集は、部分的に進めたが、想定以上に多くの史料が残存しており、2年目以降も継続的な収集が必要となる。地図史料に関しては、大英図書館での収集を行うことはできなかったが、デリーのインド国立文書間で調査を行い、本事業に関わるいくつかの重要な地図を得た。いくつかの点において計画時より遅れているが、これはボンベイを研究対象に加えたことによる発展的遅延であり、今後解消するものと代表者は判断する。 以上のことから、事業開始後の変更によって、遂行できていない課題はあるものの、事業は、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の事業遂行に関して、3つの課題を設定する。第1は、ボンベイ港と内陸交易の拠点となる町との交易を示す統計資料の収集と分析である。平成28年度に、代表者はボンベイを事業対象に加え、ボンベイの発展の在り方とインフラ整備との関係を十分に明らかにした。今後は、その継続課題として、ボンベイと内陸町との交易データを収集し、その関係を解明する。これに関する史資料の収集は、次年度以降に行うマハーラーシュトラ州立文書館ムンバイ本館および大英図書館で行うこととなり、当初の計画に新たな負担を与えることはない。また都市と町との関係に関しては、ボンベイ港の沿岸交易も考慮すべきと考え、これまでいくつかの地名があがったスリランカの地図を入手し、内陸とつながりの深い沿岸交易も部分的に可視化し、さらなる研究の可能性を示す。 第2は、28年度のGIS分析で用いた地税取決め報告書を引き続き利用し、同報告書に記載されている「在地の市場の位置・規模」のデータをGISに入力し、分析する。これによって結節点となる町の役割が判明する。さらに2年目以降に、大英図書館とマハーラーシュトラ州立文書館ムンバイ本館、インド国立文書館で調査を行い、GIS分析によって見出された町の役割に関連するより詳細な統計資料を収集し、結節点となる町の内部構造を機能的・空間的に考察する。 第3の課題は、計画時に示したとおり、当該の町で活動した商人に関する統計資料・叙述史料の収集と分析である。通関税記録にある商人の名前から商人の活動を追うことが可能である。今後は文書館調査でより詳細な商人に関する史料を収集するとともに、現地の旧商家を訪れ、私史料の収集に挑戦する。 これらの課題をまとめて、鉄道敷設意向の町の社会経済変化を考察する。
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Causes of Carryover |
ボンベイ港の交易および、インド西部の内陸の町とボンベイとの交易を調べていく中で、スリランカの地名と思われるいくつかの地名が見出された。1869年のスエズ開通以前から、ボンベイとスリランカの関係が強かったことが、代表者が研究協力者として参加する「世界貿易の多元性と多様性―「長期の19世紀」アジア域内貿易の動態とその制度的基盤」(代表:東京大学・城山智子)の研究成果によって示されたため、昨年度末に代表者はスリランカの地理情報データを求めた。その結果、スリランカ全土の縮尺(5万分の1)の地形図のデジタルデータをPacific Vision社が提供していることが明らかになった。その購入価格が約38万円であり、本事業の翌年度課題と結びつくことから28年度と合算して、購入することとしたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
Pacific Vision社が提供するスリランカ全土の縮尺(5万分の1)の地形図をデジタルデータで購入する(価格は約38万円)。これを購入して、これまで明らかにならなかった、ボンベイ港およびインド西部の内陸町と交易の関係にある、スリランカのの都市・町の地理情報を得て、最終的にインド西部の内陸の町と関わる、ボンベイの沿岸交易の実態を可視化する。
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