2016 Fiscal Year Research-status Report
西安相家巷出土秦封泥よりみた戦国秦・統一秦の中央官制及び郡県制に関する研究
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15K16844
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
下田 誠 東京学芸大学, 教員養成開発連携センター, 准教授 (40448949)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 西安相家巷 / 秦封泥 / 戦国秦 / 統一秦 / 中央官制 / 郡県制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1995年西安市相家巷において発見された秦封泥を含む総数6千を超える秦封泥資料をもとに、戦国末秦から統一秦の中央官制・郡県制等に関する実証的・帰納的な研究を行うものである。 本年度はSTEP1-2集中準備期間②にあたり、秦封泥データベースの整備に力を入れた。前年の三公九卿以外の「職官」に関するもの(財政機構以下の諸官)の整理をふまえ、「地理」に関する資料(郡県制等)のデータ入力・整理作業を進めた。現地訪問関連では、当初封泥出土地の西安市の訪問を予定していたが、別に学会発表・情報収集のため北京と台湾高雄の訪問が計画された関係から、西安訪問は翌年以降に延期とした。2016年11月北京訪問時は、中国人民大学歴史学院講座において「日本学者先秦秦漢出土資料研究的現状」と題する発表を行い、近年の日本における先秦・秦漢時期の出土資料研究の研究動向を再点検する機会となった。北京訪問の際は、中国社会科学院歴史研究所も訪れ、旧知の先秦史研究者と懇談し、『中国史研究動態』『中国史研究』等から中国側の先秦史の最新動向を確認した。 2017年1月の台湾高雄では第七届漢字與漢字教育国際研討会(高雄師範大学)に参加し、当会で発表の秦封泥研究の若手研究者、朱晨講師と議論した。後日同氏の安徽大学博士学位論文(『秦封泥文字研究』花木蘭文化出版社、2016年として出版)を入手し、漢字史としての封泥研究の動向に接することになった。 国内の所蔵状況の確認としては、別の機会に大谷大学を訪問し、今後の調査に向けた準備とした。 本年度中も秦史研究に重要な出版が相次ぎ、王輝主編『秦文字編』(全4冊、中華書局、2015年)や陳偉主編『秦簡牘合集釈文注釈修訂本』(全4卷6冊、武漢大学出版社、2016年)、陳松長主編『嶽麓書院藏秦簡(肆)』(上海辞書出版社、2015年)等の図書も積極的に収集し、秦封泥の研究に役立てた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は「おおむね順調に進展している」という区分に判断した。 慌ただしい大学での業務の中にあるが、ようやく少し落ち着きながら資料整理の時間をとれるようになってきている。郡県制のうち郡の封泥を整理しながら、感じたことは予想以上に、戦前以来引き継がれてきたものが多いことである。そうした封泥は孫慰祖主編『両漢官印彙考』(上海書画出版社、1993年)のように、従来は前漢初期と編年されてきたが、実際は戦国末秦・統一秦とみられ、今後更なる検討が求められる。また前年購入の王偉『秦璽印封泥職官地理研究』(中国社会科学出版社、2014年)は近年最重要の秦封泥研究であるが、その分類方法にもいくつか疑問を抱いた。王は郡の記載のある塩官・鉄官系、田系(公田関連)、織官系を中央所管とする。確かに前漢武帝期の塩鉄専売等を想起すれば、中央の影響の強さは予想されるところであるが、「分類」という作業において、中央所管・地方所管といった考えを出してくると、基準の一貫性を保ちえない。例えば、「代馬丞印」(古陶文明博物館所蔵資料、『秦封泥集』259頁)は代郡の馬政にあたる次官で郡管轄、「衡山発弩」(篆刻資料館所蔵資料『封じる』112番)も衡山郡管轄の射弩を掌る官署とされるが、「邯鄲工丞」(古陶文明博物館ほか所蔵、『秦封泥集』257~258頁)は中央所管の工室とされる。王の基準からいけば、馬政も発弩も軍事・交通に重視される官署であるから、中央所管でかまわない。本研究では所在地主義の有効性を展望するものである。 このように地方や田・車・工室関連の秦封泥の整理を進めていく中で、従前より自身の認識を一歩前進させる成果はあった。こうした思考を論文にまとめていくには、さらに一段超えなければならないが、資料の整理や最新文献の収集等にとどまらない意義はあったと考えている。全体の整理をする時には引き続き考えていきたい点である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度はSTEP2本格研究期間①であり、前年度までの秦封泥データベースを基礎に、引き続き遅れ気味の宮苑や県亭郷里関連の印面整理作業を進めつつ、論文執筆に歩を進める。平成29年度は秦封泥からみた郡県制に関する論考をまとめる計画にある。 秦の郡県制は長年議論が続けられている。統一の年(前221)の時、天下を36郡としたとする記事がある一方、41郡とする資料もある。また出土資料の郡名とあわない例も報告されている。筆者は秦封泥の資料の網羅的整理から、近出の里耶秦簡・嶽麓秦簡等も参考に、帰納的・実証的に秦郡県制を組み立てる。宮殿配置についても意見は分かれており、同様に研究を進める。 平成29年度は海外より178枚の相家巷秦封泥を回収した上海博物館を訪問し、その他120点ほどを有するとされる秦封泥を実見する計画を立てている。あわせて南京を訪問し、日本の太田博史寄贈の250枚の状況を確認したいと考えている(『新出相家巷秦封泥』芸文書院、2004年に収録)。太田寄贈の封泥は南京芸蘭美術館に所蔵されているとされ、その現状・閲覧の可否等、作業を進める。国内では、平成28年度に予定していた大谷大学所蔵漢封泥の訪問調査、茨城県古河市の篆刻美術館の再訪を実現したい。後者は『封じる』(松村一徳編、1998年)所収の80品を所蔵する。 研究書については、前年度秦律令を含む『嶽麓書院蔵秦簡(肆)』を購入できた。昨年中も里耶秦簡博物館・出土文獻與中國古代文明研究協同創新中心中國人民大學中心編著『里耶秦簡博物館藏秦簡』(中西書局、2016年)や陳偉『里耶秦簡牘校釋2』(武漢大学出版社、2015年)等が出版され、日本においても入手可能となっている。秦の簡牘資料の研究は動きが早く、研究会等にも参加し、情報の収集に努めたい。そのほか、申請段階に記載の秦印・封泥関連の図書についても中国書籍店等で探し求める。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は主に次の2つである。1つは当初平成28年度、秦封泥の出土地である西安市相家巷の訪問を予定していたのであるが、年度はじめからの過重な大学業務、所属センターの本務としての調査研究に忙殺され、日程が取れないと判断したこと。ただし、中国の人文社会系を代表する人民大学より講座担当の依頼があり、そちらにおいて秦封泥研究を取り巻く日本における簡牘資料の研究動向を発表することになり、北京を3泊4日で訪問したことから、一定の経費を使用したとはいえ、西安訪問ほど経費を用さなかった。また計画調書上では国内調査として、平成28年度、茨城県古河市の篆刻美術館の訪問も予定していたが、もう一つの国内調査である大谷大学訪問で精一杯で、古河訪問の余力がなく、次年度以降に訪問時期をずらした。こうした点により、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額としての金額は46,287円であり、この金額は大谷大学図書館・博物館訪問と古河市篆刻美術館訪問の経費として使用する計画にある。大谷大学図書館の禿庵文庫に漢封泥を中心とする262点を所蔵するとされ(米田健志「大谷大学図書館禿庵文庫所蔵の中国古封泥」『大谷大学史学論究』8、2002年)、そのコレクションの一端に触れることができればと希望している。東京学芸大学附属図書館を通じて、当該館文庫資料の閲覧を依頼できればと考えている。自宅(東京都小平市)から京都の往復交通費約28,000円、宿泊費・日当約12,000円であり、自宅から古河市の往復交通費2,600円、入館料200円、日当2,000円であり、こうした必要経費はおよそ前年度繰り越し額相当と考えている。
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