2017 Fiscal Year Research-status Report
西安相家巷出土秦封泥よりみた戦国秦・統一秦の中央官制及び郡県制に関する研究
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15K16844
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
下田 誠 東京学芸大学, 教員養成開発連携センター, 准教授 (40448949)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 西安相家巷 / 秦封泥 / 戦国秦 / 統一秦 / 中央官制 / 郡県制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は1995年西安市北郊の相家巷において発見された総数6000ともいわれる秦封泥を主たる資料に、戦国末秦から統一秦にかけての時期の中央・地方の官制や郡県制等に関する実証的・帰納的な研究をおこなう。加えて、秦封泥データベースを作成し、散在する封泥に関わる情報を一覧し、歴史学や考古学、書道・篆刻等、封泥に関心をもつ研究者に対し、利用の便をはかるものである。 本年度は、STEP2 本格研究期間①にあたり、当初の計画通り、西安相家巷出土秦封泥からみた秦の郡県制に関する論文の執筆に傾注した。年間を通じて、秦郡の名称をもつ封泥について、一件一件考証を続け、先行研究との対話を繰り返しながら、自分の考えや全体構想を練っていった。年間の作業工程の中では、焦点化する必要に迫られ、本年度は郡・県のうちの郡にしぼり、かつ最終段階で郡官・郡名のうち前者を切り離し、郡名に関する議論に集中した。このような絞り込みが必要となった理由は原稿発表に際し分量の制限があることもさることながら、秦郡については、三十六郡・四十八郡等の、郡数やその比定について、膨大な研究史があり、諸説乱立して決していない状況にもあった。研究代表者は近出の里耶秦簡や嶽麓秦簡等も参照にしながら、慎重に執筆を続け、年度末までに何とか原稿の執筆を終えて、投稿にこぎつけた。 本年度の訪問調査については、10月25日に大谷大学博物館を訪問し、禿庵文庫所蔵の封泥の閲覧という貴重な機会に恵まれた。当日は田字格をもつ4件の封泥を具に実見した。同時に大谷大学図書館では関連図書を閲覧し、あわせて訪問した京都大学人文科学研究所図書室では『建徳周氏蔵封泥拓影』収録漢封泥を逐一確認した。 また2017年下旬に西安を訪問し、書法芸術博物館及び西北大学博物館所蔵封泥の調査を行い所蔵状況を確認できたことは、著録の記載に頼る状況から一歩前進する成果があった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度も「おおむね順調に進展している」と判断した。 本年度は、前年度までのデータベースを基礎に、「西安相家巷出土秦封泥からみた秦の郡県制、宮苑制度に関する論文をまとめる」という計画にあった。実際に作業を進めると、宮苑制度どころか、郡・県双方を対象とすること自体膨大な研究になることが予想された。前述の通り、結果的には郡名や郡数の議論に焦点をしぼったことで、秦郡の編年や考証に係る議論が封泥の編年と相互引証の関係にあることを把握し、比較的明確な結論を導き出すことができた。現在投稿を終えたばかりで、審査を受ける状況にあり、年度内に結果を得られたわけではないが、本人としては大きな成果があったと受け止めている。 本年度も遅々たる歩みであるとはいえ、論文執筆以外でも各方面において前進があった。経費使用に係る具体的な活動としては、許雄志編『古封泥菁華』(河南美術出版社、2011年)の文献借受(龍谷大学図書館蔵)は貴重な情報収集となった。そのほか、研究代表者が訪問学者として滞在していた中国社会科学院歴史研究所の教員の仲介により、西安の秦封泥研究者から関連情報の提供を受けた。一方で如何ともしがたい現実にも直面した。西安相家巷秦封泥は引き続き各種の著録に資料の公開を続けているが、そのうちの楊文泰編『新出陶文封泥選編』や周暁陸『酒餘亭陶泥合刊』等は、ほとんど閲覧不可能な状態で、一定の限界を感じている。 訪問調査関連では、前述の大谷大学のほか、古河市の篆刻美術館や上野の東京国立博物館を再訪し、別用務にあわせて奈良の寧楽美術館や国立博物館も訪問し、所蔵資料の確認を行った。資料の実見は当然有益であるが、ミュージアムショップの参観や職員との交流も新刊情報の入手等、研究の進展に寄与した。研究者により、情報収集の方法はそれぞれであろうが、本年度は特にそうした直接訪問や交流の意義を実感する一年となった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度はSTEP2 本格研究期間②にあたり、本研究の最終年度である。当初平成28年度に予定していた西安訪問は、北京・台湾の訪問により、本年度に変更したのであるが、結果的に南京・上海訪問を残していることになる。南京芸蘭斎美術館並びに上海博物館を訪問し、秦封泥の所蔵状況の確認を行いたいと考えている。当初最終年度に予定していた杭州・西冷印社訪問は学会発表に結び付け、初年度に終了している。 論文執筆関連では、秦郡封泥の整理を終えたので、分量の関係から切り離した秦郡官関連の研究を継続して、可能であれば、論文としてまとめあげたい。加えて、秦県封泥の整理を再開し、自分なりの着眼点を得たいと考えている。当たり前のことであるが、データベースとして整理することと、論文として発表することには、一定の距離がある。結果的に、秦の産業関連や宮苑関連の封泥の整理・発表にまで手がまわるのか、不安もある。研究代表者としては、研究が進んだ結果、見えてきた地平でもあり、積み残しの部分については、今後の課題として前向きにとらえている。 研究動向としては、簡牘関連で『嶽麓書院秦簡(伍)』や本研究と関わりの深い統一秦・楚漢期・前漢初期の国内研究書が出版されている。こうした書籍を購入して、最新の研究にも目配りし、自身の研究の水準を高めるよう努力する。 新年度は最終年度であり、次の研究に向けた動きも加速させたいと考えている。本年度も博士後期課程時の指導教員や北京の研修先の同僚等に連絡をとり、さまざまな情報収集に努めてきたところであるが、秦封泥の歴史学研究は、明らかに可能性のある研究テーマであり、依然開拓の余地がある。継続的に、本研究テーマを推進できるよう、新年度も科研費等の申請に向けた準備を進める計画にある。 最後に平成30年度は報告書の作成に向けた準備も進め、若手研究として一つの区切りもつけたいと考えている。
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Causes of Carryover |
最終段階において、図書1件の購入経費について、予定されていた金額と異なり、引き落としが難しい状況となり、その1件分と残金を次年度にまわした。次年度使用額は図書購入費にあてる予定である。
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