2017 Fiscal Year Research-status Report
近世神聖ローマ帝国の宗派問題――複数宗派併存社会における帝国国制の機能の研究――
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15K16854
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
鍵和田 賢 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (70723716)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 宗派共存 / 宗教的寛容 / 対話による紛争解決 / 宗教の差異がもたらす日常生活の危機 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、異なる信仰の者同士が、紛争を経つつもいかにして「共存」のシステムを構築していったのかを、近世神聖ローマ帝国都市ケルンを対象に明らかにしていくことである。とりわけ、各地域の紛争を調停する立場にある帝国諸機関が当該紛争に対してどのように介入していたのかを明らかにする。 本年度の研究の目的は、18世紀初頭に発生した宗派紛争である「居留民条令改訂問題」に関わる史料を分析し、成果を発表することであった。この紛争はケルン都市参事会による当条令の改訂に対し、それを不服とするプロテスタント住民が参事会を相手取り帝国機関に告訴したものである。分析の結果として、帝国最高法院での訴訟には長い時間と多額の費用を要するにも関わらず原告であるプロテスタント商人は訴訟を継続し、最終的に判決が下されなかったため更に帝国議会への請願まで行ったことが明らかになった。このような原告側の行動の意図として、訴訟が継続している期間中について自らに不利な新条令の施行を停止させる一種の「時間稼ぎ」である可能性が想定され、帝国機関による最終的な判決を必ずしも必要としていなかったことが明らかになりつつある。 一方被告となった都市参事会は、「居留民条令改訂問題」についてプロテスタント商人が帝国最高法院への上訴を行うことに関して、上訴の必要性を否定する立場をとった。最終的に上訴は実行され、参事会も訴訟に応じたが、上訴に先立って原告・被告間で頻繁な接触が行われていたことが分かる。さらに、訴訟の継続中に参事会は条令の一部を修正して再発布するなど、法廷外で原告との妥協を図ろうとしたことが明らかになった。 これらの分析の結果から、宗派紛争における帝国諸機関の役割として、最終的な判断を下すことよりも妥協のための環境を整備することが重要であった、少なくとも紛争当事者はそのように捉えていた可能性が明らかになりつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一昨年度からの課題であった、「居留民条令改訂問題」における都市参事会側の帝国法認識について、史料の探索に時間を要したため取り掛かることが出来ず、研究成果としての論文発表に至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は残された分析課題を明らかにし、研究成果を論文として発表する。 都市参事会側の帝国法認識については、史料探索の成果として帝国最高法院が紛争当事者や法曹関係者への公開のために当該訴訟の概要を記した書物を刊行しており、それを入手した。本書には原告・被告の訴状・反論などが収録されており、本書の分析を通じて参事会の帝国法認識についてもある程度明らかになるものと思われる。
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Causes of Carryover |
「居留民条令改訂問題」における都市参事会側の帝国法認識に関わる史料探索に時間を要してしまい、計画通りに研究活動が行えなかったため、次年度使用額が生じた。 翌年度の使用計画については、未着手となった研究活動に要する費用について、今年度計画と同様の使用計画に基づき使用する。具体的には、「居留民条令改訂問題」に係わる史料および近世神聖ローマ帝国の司法制度に関する文献の購入のための支出、および研究成果公表のための旅費等の支出が必要となる。
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