2017 Fiscal Year Research-status Report
近代ドイツ社会における細菌学説の拡散と変容―衛生博覧会運動を中心に―
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15K16855
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
村上 宏昭 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70706952)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 衛生啓蒙運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の当初の目的は、主に1911・1930年に開催された「ドレスデン国際衛生博覧会」を中心に、帝政期からヴァイマル期にかけてのドイツにおける衛生啓蒙運動の特徴を分析することにあった。しかし研究を進めていくにつれて、当該イベントがそれまで集積されてきた種々の啓蒙展覧会の集大成であったことが明らかとなり、これらの先行する展覧会の分析も避けられなくなった。 そこで平成29年度は、これらの展覧会のうちドイツ結核撲滅中央委員会(Deutsches Zentralkomitee zur Bekaempfung der Tuberkulose:略称DZK)が主催した結核関連の啓蒙イベントに着目して研究を進め、その途中経過の成果として、村上宏昭「ヴィルヘルム期ドイツの反結核啓蒙運動―ドイツ結核撲滅中央委員会を中心に」(『地域研究』第39号、2018年)を刊行した。そこで展開した主張は以下のとおりである。 (1)ロベルト・コッホの結核菌発見(1882年)を境に、ヨーロッパでは細菌学説が医学界で正統性を獲得し、社会の衛生観念を大きく進歩させたというのが医学史の通説である。これに対し、医学界のパラダイム転換で成立した新しい認識は、そもそもいかにして一般社会に流布していったのか、その具体的なルートを解明する必要があること。(2)その回路としては、当時の衛生学者たちが好んで用いた「展覧会」という啓蒙イベントが考えられ、結核の場合、上記DZKによる「結核巡回博物館」が挙げられること。(3)当該巡回博物館の展示内容や講演内容を分析すると、そこで来場者に求められる行動様式は市民層の古い伝統的規範と完全に一致する、つまり新しい医学的認識は古いブルジョワ的規範に適合させられた上で、一般社会に流布していったこと、である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で取り上げた結核巡回博物館は、これまでほとんど研究されていない対象であり、まず当該イベントに関連する一次史料の調査に当初予定していた以上の時間を要した。しかしながら、まがりなりにも一つの成果を公表できたことは、今後の研究の方向性をより明確にしたという点で、大きな前進であると評価できる。これによってドレスデン国際衛生博覧会、ひいては当時の衛生啓蒙運動全体をめぐる歴史的文脈の一端を解明できたのであり、当該運動の歴史的な意義を炙り出す一つの契機となった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策としては、上記のDZK主催の啓蒙イベントに関する分析をさらに掘り下げ、当時の結核をめぐる啓蒙運動の研究を進めたい。というのは、結核は当時のヨーロッパ社会にあっては、感染症とされた病気の中で最も死亡率が高く、その意味では細菌学説が社会に流布していく際にも最大の回路として機能していたと推定できるからである。 また、最終年度としてこれまでの研究成果を取りまとめ、論考として発表する予定である。
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Research Products
(2 results)