2015 Fiscal Year Research-status Report
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15K16859
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
小林 繁子 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20706288)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 魔女裁判 / 刑事司法 / 請願 / ポリツァイ条令 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は近世ドイツの魔女裁判を中心とする刑事裁判を政治史と社会史の結節点に位置づけ、領主-在地役人-臣民の間の相互応答的構築物として分析するものである。この研究目的に沿って、まず『ポリツァイ条令目録』を購入し対象となるザール地方のプロテスタント領邦における法令をリスト化した。これは今後の作業の基礎資料となるものである。それに基づき、平成27年夏季にライン・ザール地方の文書館(ツヴァイブリュッケン、シュパイヤー、コブレンツ)にて史料収集を行った。ここでは同領邦の都市ツヴァイブリュッケンにおける魔女裁判史料も入手することができた。これについては順次トランスクリプトを進めており、平成28年度には精読・分析を深める予定である。
またヴュルツブルク文書館で収集したアモールバハ市の裁判事例の史料を精読した。この史料と法令の比較検討を通じて、魔女を罰しなければ「神罰」が下るとする住民の請願における迫害論理と、罪を罰することが神意にかなっており、そうしなければ神罰が下るとする近世領邦君主による刑罰の正当性を主張する論理とのギャップと緊張関係を明らかにした。この成果は、平成28年2月にドイツ・シュトゥットガルトの国際学会にて「"…wie soll dann Gott vngerechnet oder vngestrafft lassen": Der Begriff des Gotteszorns in den Hexenprozessen(「神が見逃し罰せずにおられようか」魔女裁判における神の怒り)」として報告し、概ね賛意を得られた。
さらに近年の魔女研究の研究動向を本研究の問題関心に沿いつつ整理し、論文「魔女研究の新動向―ドイツ近世史を中心に」(『法制史研究』第65号)として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
史料収集については、本研究の分析の柱となるポリツァイ条令については順調に収集が進んだ。また、まとまった形での裁判史料を入手することができ、プロテスタント領邦と司教領邦との比較という視点から裁判経過を分析するための史料基盤を整えることができた。さらに当地の文書館員とのつながりもでき、今後分析にあたり様々な助言を受けることができると期待される。またツヴァイブリュッケンの文書館(Bibliotheca Bipontina)において定期的に開催される一般向け講演会でも成果報告を行ってほしいとの要請を受けたので、助成期間内にぜひ実現させたい。
2月の国際学会においてはこれまでの成果をある程度まとまった形で示すことができた。分析概念としての「神罰」には魔女裁判のみならず他の刑事司法にも応用可能性があり、また宗派的比較にも開かれているという感触を得、今年度以降の課題を明確にすることができた。同学会は当該テーマの専門家が集う機会であり、研究者間で史料状況等の情報交換も行うことができた。
また歴史的魔女研究の研究動向について論文を発表することができた。わが国においては20年にわたって内外の研究動向の整理がなかった状況から、現在までの到達点と課題を示すことができた。また本研究課題の意義を最新の動向に位置づけ、明確化することができた。さらにこれまでの研究成果をまとめ、『近世ドイツの魔女裁判―民衆世界と支配権力―』(ミネルヴァ書房、2015年)として発表できたので、今後批判的フィードバックを得て本研究に活かすことができると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の史料収集において、ザール地方の領邦についてはポリツァイ条令と裁判史料は入手できたものの、請願史料がほとんど見られなかった。史料収集の地理的範囲を広げつつ、なぜ特定の領邦では請願行為が行われない/請願史料が保存されにくいのか、魔女裁判以外の案件については請願はどの程度実践されていたのか、考察をすすめる。新たな史料収集の対象地域として、宗派的にはプロテスタントであり、また独自の刑事手続き法を制定していたファルツ選帝侯領を取り上げる。当地については魔女裁判に関する先行研究が一定程度あり、またポリツァイ条令の数も十分にあることから、本研究の目的に沿った分析が可能であると考えられる。
また、従来対象としてきた司教領邦、特にマインツとケルンについても、近隣のプロテスタント領邦との交流・影響関係を念頭に事例収集をさらに進めていく。上記地域の学識層のプロソポグラフィ研究についても二次資料を手がかりに分析を進めていく。それにあたっては、学識層が請願・ポリツァイ条令のテキスト形成にどのように関与し、それが史料にどのような「ゆがみ」を与えるのかという観点からも史料分析を進める。
アウトプットとしては前年度に行った研究報告の内容を論文にまとめていく。さらに、刑事司法一般においてこの「神罰」のロジックを検証することが必要であろう。「魔女裁判を含めた刑事司法における神罰概念の利用」という観点で史料分析をすすめ、学際魔女研究会、宗教改革史研究会等の小規模研究会で研究報告を行う予定である。
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