2016 Fiscal Year Research-status Report
米加互恵関税論と北米経済統合-19世紀後半におけるカナダ通商政策の再検討
Project/Area Number |
15K16862
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
福士 純 岡山大学, 社会文化科学研究科, 准教授 (60600947)
|
Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | カナダ史 / アメリカ史 / イギリス帝国史 / 米加互恵協定 / イギリス帝国連邦運動 / ナショナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
課題『米加互恵関税論と北米経済統合』の研究実施にあたり、平成28年度は交付申請書に記載した「研究実施計画」に基づき、以下の二点を中心に研究を進めた。 一つ目は、オンライン史料の収集、分析である。申請書にも記したように、近年カナダ国立文書館はマイクロフィルム史料のデジタル化に力を入れており、現在では20世紀中葉以前の全ての首相の個人文書や、上院、下院の議事録の全文がオンラインで閲覧可能となっている。これらのオンライン史料を用いて、ジョン・A・マクドナルドやロバート・ボーデン、ウィルフリッド・ローリエといった当該期のカナダ首相をはじめとする政治家達の米加互恵関税に対する認識や、議会での米加互恵をめぐる論争、さらにはアメリカの政治家との互恵協定締結交渉に関して分析を行った。 二つ目は、カナダでの史料調査である。「研究実施計画」では、平成28年度はアメリカでの史料調査を予定していた。しかし、本研究計画を進める上で、平成27年度に計画していたが、時間の関係で調査することができなかった、カナダのノヴァスコシア州ハリファクスのノヴァスコシア文書館所蔵のW・S・フィールディング文書の分析は1911年の米加互恵協定締結を考える上で不可欠であり、当初の計画を変更して2016年8月に約3週間、ハリファクスを中心にカナダでの調査を行うことにした。 分析の結果明らかになったのは、当該期の政治家達は米加互恵支持の自由党ですら、イギリス帝国からの分離については全く考えておらず、むしろ帝国の枠内にありながらアメリカとの経済関係強化を目指していたということである。これは、自由党の米加互恵論を帝国分離、さらにはカナダの「独立」に向けての一階梯に位置づける従来の研究史を批判する研究成果であり、現在投稿中の論文にも反映されている。加えて、現在執筆中の論文も上記の調査、分析の成果を元としたものとなっている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、上記の「研究業績の概要」でも若干記したように、当初の「研究実施計画」で予定していたアメリカでの調査をカナダへの調査に変更し、研究を進めた。「実施計画」通りに研究を遂行できなかったことは大変遺憾であるが、本年度に増加した学内業務のためやむを得ないものであった。しかし他方で、昨年度計画していながら行うことが出来なかったカナダのノヴァスコシア文書館での調査は、研究課題である米加互恵論を推進した主要人物の文書調査を行うことが出来、研究を推進する上で極めて有益であった。そのため、達成度としては十分であると考える。また今年度の研究業績としては、入門者向けの概説書の一部の執筆を行ったが、編集の都合上刊行が今年度にずれ込んでいる。当然ながらその内容は、本研究課題の成果を反映したものである。
|
Strategy for Future Research Activity |
「研究実施計画」によると次年度は、イギリスでの調査となっているが、まず次年度は米加互恵論をめぐるアメリカ合衆国側の見解の調査・分析を行いたい。調査内容としては、ワシントンD.C.のアメリカ議会図書館に所蔵される、19世紀後半から20世紀初頭の時期に対加互恵に高い関心を示した主要政治家の個人文書を収集する。具体的には、1880年代後半の互恵運動高揚期に関しては、J.G.ブレイン、R.ヒット、J.シャーマン(共和党)、T.F.ベイアード、G.クリーブランド(民主党)等の個人文書や、また1910年代の米加互恵協定締結交渉に参加したW.タフトやN.オルドリッチの個人文書の調査を想定している。またニューヨークのスタテン島歴史協会、クリーブランドの西部居留地歴史協会がそれぞれ所蔵するE.ワイマン文書とS.J.リッチー文書は、カナダ領内に投資を行い、鉱山や電信会社を所有する実業家の立場からの対加互恵支持の議論を把握する上で重要であると考えられる。これらのアメリカの企業経営者文書は、実業家の立場からの対加互恵支持の議論を把握する上で重要であると考えられる。これらの史料の収集、分析を通して19世紀後半以降の米加経済関係緊密化の過程を主にアメリカ側の政治家、実業家の観点を中心に把握することを目指す。
|
Research Products
(1 results)