2016 Fiscal Year Research-status Report
域内自由貿易の進展下における東南アジア自動車産業の空間構造
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15K16887
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
宇根 義己 金沢大学, 人間科学系, 講師 (40585056)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 自動車産業 / 産業集積 / 東南アジア / 取引連関 / サプライチェーン / 生産システム |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年3月に,インドネシアにおいて日系自動車企業1社,日系自動車部品企業3社への調査を実施した。いずれも日本およびインドネシア自動車産業を代表する企業である。 現在整理途中であるが,調査および資料等分析により以下の内容が把握できた。インドネシアの自動車販売・生産市場は日本車ブランドが9割以上を占める。こうしたなか,2010年前後から経済発展に伴う市場拡大と同時に,インドネシア政府によるエコカー政策や現地調達率規制の強化が行われた。これらの政策が自動車生産・国内販売台数を押し上げるとともに,日本自動車部品企業の進出や既存企業の現地生産拡大を引き起こした。その結果,ジャカルタ郊外を軸とした日系企業による自動車産業集積の厚みが増している。現地各社においては,生産量や生産車種・部品,調達量などの増大がみられた。このような状況が,自動車企業や主要一次部品企業による新工場開設や生産システムの変化をもたらしている。 インドネシア自動車産業の急成長は,2000年代前半にタイが経験した状況に類似している。しかし,タイの場合は国内市場の拡大に加えて,日本企業による東南アジアおよびグローバルな生産拠点化が主な要因であったのに対し,インドネシアの場合は主に国内市場(内需)の拡大が急成長を支えている。この点が両国間にみられる大きな成長要因の差異であろう。 以上から,インドネシアの成長要因と企業活動の実態が把握できたとともに,既存研究では明らかにされてこなかった同国自動車産業の生産システムの実態とその変容が調査できたことは成果と考えられる。 2016年10月には,昨年度調査を実施したタイにおける日系自動車企業の調査結果と,過去に代表者が調査した同社の実態を踏まえ,タイ自動車企業における生産システムの中長期的な変容とその空間的含意について経済地理学会中部支部例会において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
27年度研究において,東南アジア自動車産業で最大規模かつ中心的役割を担うタイの実態を把握できたことから,その点を踏まえ,当年度はインドネシアを対象とした調査を実施した。予定していた調査企業数は達成できなかったが,同国自動車産業を代表とする企業4社への調査が実施できた。この調査により,同国自動車産業の全体像が把握できた。 また,昨年度の調査結果の成果発表に関しては,先方企業と公開内容についての確認作業を綿密に行う必要があったが,一定の情報を秘匿したうえで学会発表を実施することができた。このように調査結果の公開内容に制限が伴う状況ではあるが,東南アジア自動車産業の空間的変動をマクロ・ミクロの両面から把握できつつあることから,(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる29年度は,インドネシアにおける調査を引き続き実施し,収集情報の蓄積を目指すとともに,ベトナムを対象とした調査に着手する。また,全国規模の学会での発表を行うと同時に論文執筆を進める。 なお,インドネシアでは入国に際してのビザ取得の要件が28年度中に変更(強化)され,他国やこれまでと比して現地調査の実施環境が不透明になっている。これに伴い,28年度に実施した調査では,調査受け入れの困難や,受け入れ可能でも工場見学等を行うことができないといったことがあり,得られる情報に制約が生じた。28年度から検討中であるが,29年度調査にあたっては,現地訪問企業の協力を得るなどの方策をとりながら研究を推進する。
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Causes of Carryover |
インドネシアでの現地調査を20日程度と予定していたが,ビザ取得や訪問予定先企業との日程調整や訪問希望企業からの訪問受入れ拒否により調査期間が短くなってしまったことが主たる理由となる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
29年度に再度インドネシアでの調査を実施し,現地での調査および資料情報をさらに進めることに努める。28年度の調査においては,29年度調査の足がかりを築きながら進めてきた。インドネシアでの調査に加えて,ベトナムでの現地調査の拡充を目指す。また,GISを利用した自動車産業集積の空間的変動の把握を推進するため,これに関わる機材の整備にも使用する計画である。
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