2016 Fiscal Year Research-status Report
海外戦没者の遺骨収容活動に関する人類学的研究:戦没者と多様な生者の関係に注目して
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15K16900
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
深田 淳太郎 三重大学, 人文学部, 准教授 (70643104)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 遺骨収集 / DNA鑑定 / 個人 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度から引き続き、遺骨収集ボランティアグループAでの参与観察を行なった。今年度、特に注目したのは以下の二点である。 (1)平成28年3月に成立した「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」に基づいて、一般社団法人「一般社団法人 日本戦没者遺骨収集推進協会」が設立された。ボランティアグループAにおける遺骨収容活動も、今後、この新法人の活動と連携しながら行なわれていくことになる。この新たな環境において、Aグループの活動がどのように変化するのかに注目した。 (2)収容された遺骨についてのDNA鑑定が平成15年度より実施されているが、実際に鑑定が実施されるのは、これまでは冷涼な気候で比較的骨の保存状態が良い北方で収容された遺骨に限定されていた。しかし、今年度からより積極的に南方での遺骨についてもDNA鑑定がなされるようになってきている。とはいえ、実際にガダルカナル島で収容される遺骨のほとんどが、細かくなった骨片であり、どのような手法で鑑定が行なわれ、何が明らかになるのかは不明である。そこで、具体的な鑑定の手法と、それに対する遺族やボランティアグループメンバーの反応を明らかにする。 以上の課題を明らかにするために、平成28年11月末に、新法人の第一回派遣事業として実施されたガダルカナル島での遺骨収容活動に随行した。活動においては、厚労省、新法人、Aグループ、別グループの間での活動についての方法や意識の齟齬、そしてそのすりあわせのプロセスが見られた。またDNA鑑定の検体を取得する具体的な方法についても観察した。その過程からは、遺骨が千鳥ヶ淵戦没者墓苑で「集団化」すると同時に、遺伝子データレベルで「個別化」されていくという二つの動きが同時に生じていることが明らかになった。 なお、この研究成果については、日本オセアニア学会第34回研究大会において報告を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度末に遺骨収容に関する新法「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」が成立したため、今年度から調査対象の活動の形態が若干変更された。これまでは完全なボランティアでの活動だったため、当事者の許可だけで参与観察が可能であったが、新法人には税金が投入されており、公の活動になるため調査遂行が少し難しくなった。 だが、今年度に関しては11月の活動に随行することが出来、またそこで新たなDNA鑑定の手法を観察することができるなど、新たな状況に対応して調査を実施することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
新法「戦没者の遺骨収集の推進に関する法律」および新法人「一般社団法人 日本戦没者遺骨収集推進協会」の成立により、今後Aグループの活動形態は大幅に変わっていくことが予測される。場合によっては、グループが再編成されたり、あるいは活動を終了する可能性もある。こういった事態も予測し、新法人での活動を調査することが出来るよう、新たな調査ネットワークを今後構築していく必要がある。 また遺骨のDNA鑑定と千鳥ヶ淵戦没者墓苑へ集団埋葬は、先述したとおり「個人化」と「集合化」という戦没者に対する二つの矛盾するようにも見える取り扱いを両方含んだプロセスである。このプロセスに関わる、諸々の実践と言説を収集し、詳細に分析していくことで、戦没者という人間存在がいかなるものであるのかについても考察を深めていきたい。
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Research Products
(2 results)