2016 Fiscal Year Research-status Report
前近代日本における理念的鎌倉幕府像の形成と展開―その言説史的再構成―
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15K16912
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山口 道弘 千葉大学, 大学院人文社会科学研究科, 准教授 (60638039)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 鎌倉幕府 / 御家人 / 主従 / 傍輩 / 平家物語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、頼朝挙兵譚の一部をなす、佐々木氏関係記事について、吾妻鏡と読み本系平家物語諸本との比較検討作業を通じて、吾妻鏡の持つ偏差の1つを明らかにする事が出来た: 当時の一般的社会通念を構成すると考えられる読み本系平家物語諸本では、姻族の結合と主従の結合とを二項対立の図式で捉えていた。忠義の士は、舅や妻子を振り捨てて主君に忠義をつくす「べき」ものとされていたのである。 之に対し、鎌倉幕府は、吾妻鏡の頼朝記編纂の際に、読み本系平家物語(延慶本に近い)の一本を利用したにも拘らず、御家人の上記の二項対立図式に敢て触れず、恐らくは参照した平家一本に載せていたであろう「舅を捨てる」記述を採用しなかった。 従者の忠義を重んじたいはずの鎌倉幕府が、そのような記述を採用したのは何故か? 当時の御家人社会では、姻族の結合が重要な役割を担って居た(そもそも北条氏が将軍の後見となったのは姻族結合による)が、その結合関係は十分に定式化されておらず、動もすれば御家人の家の間に支配従属関係をもたらしかねなかった。 鎌倉幕府は、姻族の結合が現実に大きな役割を担っていたことを理解していたから、過去に於けるその働きを無視は出来なかったが、しかし、舅と聟とのどちらかに肩入れすれば、御家人の家の間の隠微なマウンティングを助長し、御家人社会の不安定を助長することになる、だからこそ、鎌倉幕府は、姻族の結合の果たした役割に就いて、吾妻鏡の中で価値中立的な態度を採った。そして、姻族関係ではなく、個々の御家人同士の「傍輩」関係こそが、御家人社会を結ぶ紐帯として機能していたかのような、鎌倉初期の歴史像を新たに作り上げ、之を長く参照されるべきものとして、「家門草創」記事の初めに置いたのであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究の遅れを取り戻し、蒐集した史料の整理読解に力め、鎌倉幕府の主従制度と歴史理解との関係に就き、見解を論文に纏めて公表し、且つ、2回の報告を行うことが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年の研究成果の上に立ち、第1に、吾妻鏡における渋谷氏関係の記事に取材して、御家人の家の父子関係に対する歴史理解が、吾妻鏡を編纂した頃の鎌倉幕府主従制度と如何なる関係に立つかを明かにし、第2に、南北朝室町期の歴史書、太平記の諸本を読み説き、主従制と血族/姻族結合とが、如何に関係付けられているか、を整理する。
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Causes of Carryover |
美濃加茂市への史料調査を予定していたが、平家物語諸本の読解と論文作成とを優先させたため、その機会がなかったから。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の後半に、美濃加茂市で史料調査を行うために繰り越し分を用いる予定である。
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Research Products
(3 results)