2015 Fiscal Year Research-status Report
功績概念の再検討を通じた応報刑論の擁護とその含意の解明
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15K16913
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
米村 幸太郎 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (00585185)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 功績 / 応報刑論 / 分配的正義 / 応報的正義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の中心的テーマは、刑罰の根拠についての応報主義(retributivism)の内実と正当化可能性について、功績の概念を手掛かりとして考察することにある。本年度は、功績概念の分析と現代正義論におけるその位置付けについて、分析系法哲学の蓄積をサーヴェイしつつ、整理・検討した。その際、とくに分配的正義の領域において功績に応じた分配という正義構想を退け、功績と正義の無関連性を主張したとされるロールズの議論に焦点を当てることとした。ロールズのこの議論は、現代正義論(のうちとくにリベラルな立場)において功績の概念がほとんど顧みられなくなる傾向を生み出した原因となったという意味で重要だと考えたためである。その上で、ロールズのこの論点をめぐる論争史を検討し、(1)たしかに分配的正義の分野において功績に応じた分配という構想は支持できないこと、(2)しかしそのことは応報的正義の分野において功績の概念が理論的役割を果たす可能性を否定するものとは見なせないこと、かつ、功績に応じた分配を否定するリベラルな立場からも功績概念を基底にしたある種の応報主義的刑罰論を擁護できることを発見した。この知見は、刑罰に関する応報主義がよく言われているような復讐実践の単なる残滓ではなく、リベラルな立場にとっても真剣な理論的検討に耐えうる立場として構築しうることを意味しており、その点で意義を持つと言える。この知見は、日本法哲学会における統一テーマ報告「「功績(desert)」概念と応報」および論文「ロールズにおける功績の非対称性問題」(『横浜法学』)として発表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画に記した通り、日本法哲学会の統一テーマ報告において功績概念と正義、そして刑罰の関わりについて報告し、研究内容の中間的成果報告を行うことができた。この内容はH28年度の『法哲学年報』にも掲載される予定である。加えて、その際紙幅の制約等の理由から盛り込むことのできなかった議論の詳細について、『横浜法学』に発表することができた(「研究実績の概要」参照)。この点は当初研究計画には予定していていなかった成果であり、また内容的にも功績概念についての基礎的研究を超えて、刑罰論における一定の立場について踏み込んで検討したという点でも、計画以上の成果と認識してよいと思われる。 一方、当初予定していたIVR世界大会における英語での発表は、準備が間に合わず、見送らざるを得なかった。この点で成果の発表の面ではやや遅れが生じたと言えるが、他面で上述の通り予定以上の成果を得た部分もあるため、総合的には概ね順調に推移していると評することが許されると判断している。なおこの部分の遅れは次年度以降、英文ジャーナルへの投稿などで埋め合わせるつもりである。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画に記した通り、今後はここまでで得られた功績論および刑罰論の知見を踏まえて、功績を刑罰の正当化根拠とするタイプの応報主義の詳細な描像を、その含意も含めて明らかにしていくとともに、刑罰の正当化根拠についての応報主義以外の理論との比較検討を行っていく。とはいえ、この作業は日本法哲学会における統一テーマ報告等においてすでに部分的には遂行されている。したがって、今後はまずはそこで発表された内容を発展させた成果を論文の形で発表することに意を用いたい。また、「現在までの進捗状況」に記した国際的成果発表の面での遅れを、他の英文ジャーナル等への投稿という形で埋め合わせていきたい。
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Causes of Carryover |
予定していた国際学会での発表が不可能になり、旅費の支出が不要となったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
他の国際学会での発表、ないし国内学会での発表を増やし、そのための旅費に充当することとしたい。
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Research Products
(2 results)